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![]() ヘルムホルツ |
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作品ID | 58047 |
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著者 | 石原 純 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「偉い科學者」 實業之日本社 1942(昭和17)年10月10日 |
入力者 | 高瀬竜一 |
校正者 | sogo |
公開 / 更新 | 2018-08-31 / 2018-07-27 |
長さの目安 | 約 12 ページ(500字/頁で計算) |
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エネルギーの原理
皆さんは物理学の上でエネルギー恒存の原理というもののあることを知って居られるでしょう。これはすべての物質現象に通じて成り立つ根本的な原理で、今ではこの原理に背くような事がらは全くないと考えられているのですが、このような大切な原理がどうして見つけ出されて来たかということは、科学の上で実に意味ぶかいことであると云わなくてはなりません。
もちろんエネルギーの原理が見つけ出されるまでには、いろいろな段階のあったことは確かであります。すべて科学の発達はある順序を踏んで、その一歩々々を進めてゆかなくてはならないのですが、根本的な原理になると一層そうであることがこのエネルギーの原理などにおいても知られるわけであります。エネルギーが恒存するということは、まず物体の運動に関して最初に知られたのでした。地球上の空間で物体が運動する場合を考えて見ますと、普通に物体が高い処から落ちるようなときには、落ちるに従って速さが増し、それに伴なって運動のエネルギーが増すのです。ところが一方では物体は下の方へ動いてゆくのですから、高さに応じてもっている位置のエネルギーがだんだん減るのです。そして実際にこれ等を計算して見ますと、運動のエネルギーの増加しただけ位置のエネルギーは減じているので、両者を合わせたものはいつも同じになっていることがわかります。つまりこの事は運動の現象の範囲でのエネルギーの恒存を意味しているのです。
これだけの事がらは、ニュートンの力学が発達した十八世紀の時代に既にわかっていたのでしたが、運動以外のいろいろな現象を考えに入れると、事がらがなかなか複雑になって来るので、それは容易にわからなかったのでした。殊にむずかしかったのは、熱が何であるかということでした。この前にラヴォアジエの伝記を述べたときに、熱をおこすところの火についてまちがったフロジストン説が長い間行われていたことをお話ししましたが、火と同じように熱もまた何かしらある物質であると考えられていたのでした。そしてそれをカロリック(熱素)と称えていました。ところがこの説に疑いをもって、熱の本体をつきとめようとした学者もだんだんに出て来たので、そのうちでも正しい考えかたをなし始めたのがルンフォード伯という人であります。
ルンフォード伯の本名はペンジャミン・トンプソンと[#「ペンジャミン・トンプソンと」はママ]いうので、アメリカのボストン市に近いノース・オバーンという処で生まれましたが、壮年の頃に独立戦争が起った折に、独立に反対したという嫌疑を受けて捕えられたのを、うまく抜け出してイギリスに逃がれ、その後科学の研究を始めて、王立協会の会員にもなりました。それからドイツへ赴いて、バイエルンの国王に仕え、非常に重く用いられて、陸軍大臣にもなり、そこでルンフォード伯の爵位をも授かったのでした。晩年には再…