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「ニールスのふしぎな旅 上」まえがき
「ニールスのふしぎなたび じょう」まえがき
作品ID58050
著者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「ニールスのふしぎな旅 上」 岩波少年文庫、岩波書店
1953(昭和28)年5月15日
入力者sogo
校正者チエコ
公開 / 更新2019-11-20 / 2019-11-02
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ヨーロッパの北のほうの国には、すぐれた童話作家がおります。アンデルセンといえば、みなさんの中で知らない人はないでしょう。それからトペリウス、この人も美しい童話をたくさん書いていますね。けれども、ラーゲルレーヴという名まえはあまり聞いたことがないかもしれません。そうでしょう、童話はほとんど書いてはいないのですから。でも、この人の書いた「ニールス・ホルゲルッソンのふしぎなスウェーデンの旅」(「ニールスのふしぎな旅」と短くしておきました)という童話は、みなさんも読んでみればわかるとおり、とってもすばらしいお話です。ですから、スウェーデンの人たちばかりか、いろんな国のことばに訳されて、よその国の子どもからも、おとなからも喜ばれているのです。
 セルマ・ラーゲルレーヴさんは、一八五八年十一月二十日にスウェーデンのヴェルムランドという地方に生まれました。ラーゲルレーヴさんは足がすこし不自由だったせいもあって、小さい時から本を読むことが大すきでした。大きくなったら、詩や小説や戯曲を書きたいと思っていました。でも、そのためには、じぶんひとりで本を読むばかりではだめだと気がついて、二十三歳のときに女子高等師範学校にはいりました。そこを卒業してからは、しばらく女学校の先生をしていましたが、ちょうどそのころ、ある雑誌で懸賞小説を募集しました。そこで、故郷の伝説をもとにして「イェスタ・ベルリング物語」という作品を書いて出してみますと、それがみごとに当選しました。そして、一八九一年に出版されたこの作によって、ラーゲルレーヴさんの名は一躍有名になったのです。一八九五年まで先生をしていましたが、それからまもなくヨーロッパを旅行して、その時の経験から「イェルサレム」という名高い小説を書きました。
 一九〇二年には、スウェーデンの教育会から、子どもに読ますための本を頼まれました。そこで、ラーゲルレーヴさんは三年のあいだ鳥やケモノの生活をくわしくしらべました。こうして苦心したあげく、ようやく書きあげたのが、この「ニールスのふしぎな旅」です。これは、ガチョウのせなかに乗ってスウェーデンじゅうを飛びまわる少年の冒険物語ですが、その旅のあいだに、各地の伝説や、おもしろい風俗や、ためになるお話をたくさん聞かせてくれます。それから、鳥やケモノの生活、そうしてそれらのあいだの友情や愛情をも教えてくれます。しかもそれが、美しい風景の描写とともに、ゆたかな空想力によって、じつにすばらしい物語となっているのです。
 ラーゲルレーヴさんは、このほかにも、「地主の家の物語」をはじめ、たくさんの作品を発表しています。こうした文学上の活躍が認められて、一九〇九年には、女の人としてはじめての名誉であるノーベル文学賞を受けました。また、一九一四年にはスウェーデン学士院会員にもえらばれました。
 そのうちに、第二次世界大戦…

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