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ニールスのふしぎな旅
ニールスのふしぎなたび
作品ID58052
原題NILS HOLGERSSONS UNDERBARA RESA GENOM SVERIGE
著者ラーゲルレーヴ セルマ
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「ニールスのふしぎな旅 下」 岩波少年文庫、岩波書店
1954(昭和29)年1月20日
「ニールスのふしぎな旅 上」 岩波少年文庫、岩波書店
1953(昭和28)年5月15日
入力者sogo
校正者チエコ
公開 / 更新2019-11-20 / 2019-11-20
長さの目安約 453 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

1 少年


小人

三月二十日 月曜日
 むかし、あるところに、ひとりの少年がいました。年は十四ぐらいで、からだは大きくアマ色の髪の毛をしていました。この子は、たいして役にもたちませんでした。眠っては、たべるのがいちばんの楽しみで、おまけに、いたずらをするのが大すきという子だったのです。
 ある日曜日の朝のこと、おとうさんとおかあさんは、教会へいくしたくをしていました。少年はシャツ一枚になって、テーブルのふちに腰をかけ、こいつはしめた、おとうさんとおかあさんがいってしまえば、二時間ばかりはすきなことがしていられるぞ、と思いました。そこで、「よし、おとうさんの鉄砲をおろして、打ってやれ。だれにもおこられやしないからな。」と、ひとりごとを言いました。
 けれども、おとうさんは、まるで子どもの考えていることを見ぬきでもしたようでした。だって、そうでしょう。おとうさんは出かけようとして、しきいをまたごうとしたとき、急に立ちどまったかとおもうと、子どものほうを振りかえって、こう言ったのです。
「おまえがおかあさんやおとうさんといっしょに教会へいきたくないのなら、家にいてもいいが、せめてお説教だけは読んでおきなさい。おまえにその約束ができるかね?」
「はい、できます。」と、少年は答えました。でも、もちろん、おなかの中では、読みたいだけしか読んでやるもんか、と思っていました。
 少年は、おかあさんがこんなにすばしこく何かするのを、いままでに一ども見たことがありません。おかあさんはたちまち本棚のところへいって、ルーテルの説教集をおろし、その日のお説教のところを開いて、窓ぎわのテーブルの上におきました。それから、聖書を開いて、これも説教集のそばにおきました。さいごに、おかあさんは大きなひじかけイスをテーブルのそばに引きよせました。このイスは、去年、ヴェンメンヘーイの牧師館であった競売のときに買ってきたものでした。そして、いつもは、おとうさんのほかは、だれも腰かけてはいけないことになっていました。
 おかあさんは、よけいな世話をやきすぎる、と少年は心の中で思っていました。なぜって、少年としては、一ページか二ページぐらいしか読むつもりはなかったのですから。けれども、またしても、おとうさんは少年の心の中を見すかしたようでした。おとうさんは少年のそばへやってきて、きびしい調子でこう言いました。
「よく気をつけて、ちゃんと読むんだぞ。おれたちが帰ってきたら、一ページ残らずきくからな。もしちょっとでも飛ばしていたら承知しないぞ。」
「お説教は十四ページ半あるのよ。」おかあさんは、まるで、はっきりさせておこうとでもいうように、こう言いました。「読んでしまおうと思うんなら、すぐにはじめなくちゃだめよ。」
 こう言いのこして、おとうさんとおかあさんは出ていきました。少年は戸口に立って、あとを…

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