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婦人に対する実業思想の急務
ふじんにたいするじつぎょうしそうのきゅうむ
作品ID58084
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2020-06-29 / 2020-05-27
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一千万人の婦人は国民の基礎なり
 五千万の日本国民のうち、その半ばの二千五百万は婦人であるといってよろしい。而してその中から、老人と子供等を一千万人と見積っておいて、別にまた五百万人という婦人をば、その天然に来る病気、即ち妊娠とか出産とかいう場合のために普通に働く事が出来ない者として、もう一つはあまり富貴富豪の家に生れて、自ら働くという事が出来ない境遇にいる様な婦人等として見ても、残る一千万人の日本婦人は最も健全な国民の基礎となっていることは明らかである。
 で、この一千万人の婦人等は何所如何なる地におるものでも、毎日熱心に働いて国のため家のためにつくしつつあるのである。

婦人の向上心を養え
 近頃しきりに耳にする言葉は、「一体日本婦人は!」という様な、如何にも日本婦人等を卑下してここが至らぬとか、かしこが届かぬとかいう事を得意になって言い立てているが、これは誠に面白くない議論だと思う。何故かというと、そう日本婦人が欧米の婦人に及ばないとかなんとか口々にいうていると、自然に日本婦人が卑屈になって来て、向上心が無くなってしまうのである。
 しかしながらこの向上心というのが、いわゆる今日の虚栄心と真に誤解し易いので、よく間違いを来す事があるが、しかし婦人でもこの向上心が無い限りは決して社会も国家も進歩して行く事が出来ない。故に今日の婦人教育者は、よろしく日本婦人が虚栄に流れずに向上心を養成してゆく事が最も肝要であると思う。
 斯様に日本婦人を無闇に卑下してはならぬといっても、決して日本婦人は完全であるという理由ではない。我が邦の婦人にもなかなか欠点がある。改良を加えなければならぬところは頗る多い。が、しかしこの欠点のあるのは強ち我が邦のご婦人等ばかりでは無い。欧米の婦人連もまた同様に欠点があるので、その彼我の欠点を互いに相改めて、初めて頼母しい婦人が出来上がるというものである。

働く事は日本婦人が第一
 世界の婦人等を比較してみると、一番よく働くのは我が邦の婦人である。日本婦人は御座敷の人形の様だの毎日家の内で遊んでいるというのは、ある一部の外国人が、我が国の上流社会の家庭や貴婦人の生活をちょっと覗いてみた批評に過ぎないので、誠に誤ったる話である。労働といえば大きく聞える様だが、つまり遊んでいずに働くという事については、決して他国の婦人等に劣らない。最初にいった一千万人の婦人は、毎日悦んで農事に、養蚕に、機織に、裁縫に、紡績に、商業に、教員に、その他百般の事業に従事している。ほとんど今日の生産事業に婦人の手を借りないものは稀であるくらいになっているので、これは古来からの習慣で別段に婦人の実業教育などといって奨励しない以前からの事である。しかし今日までの我が国婦人には欧米婦人等の様に、社交という手数のかかる時間を要する一つの仕事が無かったから、家におって静かに…

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