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永久平和の先決問題
えいきゅうへいわのせんけつもんだい
作品ID58102
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「大觀 第二卷第一號」大觀社、1919(大正8)年1月1日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2020-01-10 / 2019-12-27
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

天国は近づけり
 風塵漸く収まって世界は今や夕凪の寂静に帰ったが、この平和を間歇的のものたらしめず永久に確保し行かんと欲する事が、この五年間戦雲に鎖された後に、斉しく眼覚めた全人類の渾身の努力で無ければならぬ。人々口を開けば正義といい、人道という。正義、人道は古来吾人の標置する高き理想であるが、これを如何様にして実現すべきか。この実現は刻下の時勢の必要が吾人に迫って促して已まざるところのものである。特にこのたびの大戦の教訓はこの正義、人道が最後の勝利者たるを示した。吾人はこの最後の勝利をあくまで持続的のものたらしめ、これを永遠に確保せしめなければならぬ。これが即ち吾人の理想の実現に忠実なるゆえんである。宗教家は曰わずや、天国は終に来るべしと。これは神の愛が恵日の如く、慈風の如く下土に遍照し流行して、人類が共に永久の平和を楽しむの日有るを語ったもの、人類の歴史は虎狼の群羊を駆るが如く、強者が弱者を圧して止まざるものであるけれども、而かも人の性は正義を愛し人道を好む。平和はあくまでその理想とするところである。否、平和はこれを理想というよりも、吾人の確信というを以て一層妥当なりとする。而してその確信を実現する事が吾人の受けたる天命である。されば吾人人類は互いに利己的欲望をある度にまで制限して調和を謀るべきだが、如何せん、人類にはまた誤れる種々の歴史的思想あり、感情あり、迷信あり、政治あり。これがその本来の理想の実現を妨げて、地上に刃を齎す事が屡次である。その結果は枕骸野に遍く草木もために凄悲するという惨憺たる光景を呈するに至る。生きながらの地獄である。これに於て悔悟する。即ち宗教家のいわゆる悔改めである。悔改めの結果は必ずまた神に救われて、其処に真の天国が地上に示現する。然らばこのたびの大戦の惨禍を経験して、深刻なる苦痛の印象を止めた全人類の胸底にはもはや至心の悔改あるべく、然らば天国はまさに近づけるものでなければならぬ。

覇道と王道
 ここに憶い起すは、支那の春秋戦国時代である。いわゆる周道衰微し乾綱紐を解いたために、封建の諸侯が各々方隅に割拠し、強は弱を凌ぎ、大は小を併せ、五覇七国並び起り、これに附庸の小国が有って攻伐止むの日が無かった。これが即ち春秋戦国の時代であったが、而かも初めは内に自己の欲望を蔵しながら、これを充たさんがために表面形式的に、前に天下を統一した周の王室をあくまで奉じて中心とし、ここに会盟して争奪を止めんとした。これを称して弭兵という。弭兵とは兵を弭めるという事だが、その性質より考うるにこれを今日の語でいえばリーグ・オヴ・ネーション、国際連盟ともいうべきである。即ち会は諸侯の相会する事で、盟とは神明に誓約するゆえんの義である。神かけて誓約する。然らばこの誓約こそは天長地久変ることなかるべきである。しかしながら彼等の会盟には如何せん、平和の…

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