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国民教育の複本位
こくみんきょういくのふくほんい
作品ID58105
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出日本女子大学校第一回創立披露会での演説、1897(明治30)年3月25日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2019-08-19 / 2019-07-30
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔成瀬君からの依頼〕
 諸君、今日は成瀬〔仁蔵〕君より諸君に向って何か一言述べる様にという事でありました。実は私は教育家でない。なかんずく女子教育という事については学んだ事もなければ、またそれほど深く注意をした事もない。それで甚だ迷惑であるからご免を蒙りたいといって再三辞退を申したけれども、是非何か述べる様にというので不肖を顧みず一言述べようと思います。
 昨年成瀬君にお目に懸りまして、女子大学を興すというお話を承りまして、初めて女子大学の大切なる事を承りました。一体私は学問というものはない、また教育上の智識も経験も無いに拘わらず、成瀬君の女子大学設置に熱心な賛成を致し、且つご依頼に依て多少知るところの友人、その他に向って成瀬君のためにこの大学に力を尽すように誘導してくれと頼んだ。それについて私は成瀬君の説を聞いて少しく感じが起ったから、その感じの起ったゆえんを一言しようと思う。

〔国の基礎は国民の智識と性格〕
 漠然たる話の様でありますが、私が常に感じておりますのは、先刻から色々細かなご議論がありまして、また近衛〔篤麿〕公爵よりも家庭教育の大切であるという事を述べられましたが、まあ少しくそれに類するような事もあります。
 思うに誰でも国を富まし、兵を強うし、以て国家万年の基礎を鞏固にするという事を願わぬものはありますまい。資本家が資本を投じ、事業家が事業を営むのは、ただ徒に自己の福利を慮り、一家の繁栄を祈るがためのみではありますまい。まことに国を富まし、兵を強うし、以て国光を八表に輝かし、また国威を万世に垂れんがためでありましょう。けれども商売が如何に繁昌するも、産業がなにほど隆盛に趣くも、はたまた個人の所得如何に裕かに、国庫の歳入が幾ら充溢するも、更にまた鉄艦海を蔽うも、貔貅野に満つるも、未だ以て必ずしも国家の基礎鞏固なりとは申されません。真個の富国強兵とは、単に国民の財嚢重きの謂ではない。また海陸の軍備の整えるを申すのでもない。勿論富と兵とは治国の要具には相違ありませんが、国家の生命を維持発達せしめてその基礎を堅固にするものは、なお別にその奥に潜伏して存しております。即ち国民の智識及び性格の二つであります。
 金銭は確かに一の勢力であるが、とても智識の勢力の旺盛なるには及ばない。蓋し智識は造化児さえをも捕えて奴隷となし、人間の使役に供し、以てその福利を増殖し、その開化を促進致します。もしそれ火輪車の海を駆けり、鉄車電車の陸を馳せ、電線の音信談話を伝え、郵法の書信貨物を運ぶということがなければ、どうして交通が自在なる事が出来ましょう。既に交通自在ならず、その上になお銀行の制度が設けられず、手形の交換が行われなんだならば、どうして商業が振い興りましょう。工業の発達は工学の発達に伴い、農業の進歩は農学の進歩に従わねばならぬ如くに、国民の強健は生理衛生医学の…

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