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青年の元気で奮闘する我輩の一日
せいねんのげんきでふんとうするわがはいのいちにち
作品ID58106
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2018-03-11 / 2018-05-15
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

境遇に応じ規律ある生活を必要とする
 一日の生活をするにしても何時に起き、何時に食事をなし、何時に訪問者に接し何時から人を訪問するという様に規律正しくしている人もあるが、我輩の様に幕末時代から明治にかけての、非常な場合に於て働かねばならなかった者は、朝の予定と夕の実際とまるで変る様な生活をして来たので、そういう習慣が第二の天性となって、今日でもあまり予定を立てた生活をすることは遣らないのである。例えば軍人が戦争をするにしても、地図の上で決めた作戦計画通りの戦闘をすることは少のうて、多くの場合は不意に起って来るところの戦い、即ち遭遇戦というものの方が多いのである。人生もまたこれと同じ様に、多くの人の生活には不意の出来事の方が多いのである。そこで実際生活に必要なことは、如何なる不意を喰ってもこれに狼狽しないだけの心胆を錬っておくことであると思う。その方法は今日の学者、宗教家、教育家の言っているところの形式ばかりの修養というものでは駄目だと思う。彼等は口先ばかりで豪そうなことを言って、その生活はむしろその言うところの反対を行っているのが少なくない。
 我輩の実験からいうと、整然たる理窟の立った生活を云々するより、真面目に努力する生活の方に力があると思う。しかし時勢が益々進化して、秩序と平和とが保たれる様になれば、従って国民の生活も秩序ある規則あるものとなって行くべきは勿論である。要するに初めからきちんとした箱詰めの様な生活を真似るよりも、境遇に適応した活動をしてそこに規則のある生活を造ることが必要である。

我輩の元気は今日でも青年と異ならない
 右のようなことで我輩は、とりとめて言うほどの規則のある生活はしていないが、それでも毎日の生活の概略を言うと、まず起床は夏であれば五時、冬になれば六時となっている。面を洗い全身の冷水摩擦でもすると、体中の血液は漲り溢るる様な爽快を感ずることは、今日も青年時代と少しも異なるところがない。この元気で庭園を散歩しながら、好きな植木や盆栽の手入れや農園の指図などをする。朝飯がすめば多くの訪問者に接したり、大学やその他のことのために働く様になっている。
 我輩の主義として、訪問して来るほどの人には事情の許す限りは面会することとしている。それで老人も来れば青年も来る、貧乏人も来ればまた若い婦人も来るので、昼間は新聞を見る暇さえない。その代りに夜は土地が辺鄙なので滅多に訪問客もないから、四時間ぐらいは自分の時間として、新聞雑誌や纏った読書も多くこの間にする。時によると何かの必要で調べものをすることもある。

希望ある者は決して老いるものでない
 我輩の百二十五歳の長寿説を不思議がる人もあるが、決して不思議なことはない。人間は世のためとかまたは人のためとかに何かして働こうという代り、もしも人生に希望さえあれば老朽者となる恐れはない。その代…

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