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大戦乱後の国際平和
だいせんらんごのこくさいへいわ
作品ID58109
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出民族的僻見の除去「平和時報 第三巻第一〇号」1915(大正4)年10月<br>戦争と平和「平和時報 第三巻第一〇号」1915(大正4)年10月
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2019-08-19 / 2019-07-30
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

将来の世界の平和の予想
 今度スタンホルドのジョルダン博士が会長となって、桑港に於て平和会議が開かれる。日本からも是非人を出してくれということであったから、誰かに行ってもらおうと思ったが、誰も行かれぬ。仍って向うに行っている服部宇之吉氏と海老名弾正氏、二人とも平和協会の会員だからこの二人に列席してもらうことにしたが、何か日本の会長として祝文でもやってくれということであった。そこで、後に掲げている祝文を送った。
 実は、文明諸国の国内は既に平和だ。多少の争いはあるといっても、例えば日本でいえば、党派の争い、政友会とか同志会とかの争いであるけれども、これは平和の上の争いである。そうすると、今日の平和ということは国際間の問題である。そこで、今度の大戦乱も国際間の大競争であって、その根本には民族的競争が伏在するのである。この民族的競争と世界大戦争と国際平和との関係を説いて、将来の世界の平和を予想してみよう。まず古代の帝国主義、即ちすべての民族を集合する古代帝国主義、換言すれば、今日の民族的帝国主義に非ざる古代主義より説いてみよう。

古代の帝国主義
 古代の帝国主義は、民族的観念を根本とせぬので、即ち種々雑多の異民族を征服集合するというのであった。例えば、希臘人は自国以外を野蛮国と呼び、これを征服するを主義としたのである。故に、かつてマセドニヤの使節は希臘の「エートリヤン」会議で他人種、即ち野蛮人バーバリヤンと我が希臘人とは永久に戦争すべしと叫んだ。
 支那もまたその通りで、自国以外を東夷、南蛮、北狄、西戎といった。これは希臘人と同じである。漢武帝、成吉汗等は、その眼中に映じ来る他国を一々民族の如何を問わず征服するという、古代の帝国主義者であったのである。
 羅馬に至りては、一層この古代主義を取ったのである。羅馬は民族の如何を問わず、一切これをその配下に入れるために征服主義を取ったのである。今日の「パン・ジャーマニズム」の如き民族的統一ではなく、同民族以外の者でも一切侵略征服せんとしたのである。換言すれば、羅馬は世界的主権を握るべく主張したのである。従って、亜細亜人でも、阿弗利加人でも、皆これをその配下に入れて、その上に世界的主権を立てるべく主張し、且つこれを実行したものである。この世界的主権の観念は一変して領土主権となり、終に東羅馬帝国並びに羅馬日耳曼「ローマノ・ジャーマン・エムパイアー」の滅亡と共に、現今の欧州列国の基礎が出来て、ここに初めて羅馬の世界的主権の観念は亡びたのである。とにかく、この羅馬の世界帝国主義は今日の如き民族的統一主義とは異なる。この世界主義に代りて起りたるものが、いわゆる民族的統一主義である。
 一面に於て正統主義なるものがあって、国内に民族の異なるものあること墺太利の如くなるも、その国王の祖先がその領土を世襲すれば、その国王の正統なる後胤…

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