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日本の文明
にほんのぶんめい
作品ID58111
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「教育時論 第七百八拾貳號」開發社、1907(明治40)年1月5日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2019-01-10 / 2018-12-24
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔日本と東西両洋の文明〕
 従来、我が日本国には立派な哲学者が無かった。しかし外国から伝わった哲学書などは有ったが、一般国民はこの思想に触れずして、この日本という孤島の楽土に逸居し、世界の生存競争の衝に立たず、静かに太平を楽しんでおったからして、深遠なる人生観、世界観が出来なかったのである。
 然るに東西両洋文明の接触は、我が日本をしてこの楽土に桃源の夢を続けしめずして、非常なる大変化を政治、道徳、宗教、文学、美術、教育の上に来たし、随って輓近の如く驚くべき国民的大活動を生じ、その結果として新日本の文明、即ち世界の大問題たる東西両文明の統一を得たのである。依って我輩は東西両洋文明の大勢を踪索して、延いて現下の世界の大勢に及ぼし、以て今後に於ける我が国民の覚悟を促そうと思う。

〔文明の発祥と東漸・西向〕
 抑々世界に於ける文明の淵源発祥の地は、一なるかはた二なるか、これを歴史に、人類学に、社会学に、言語学に、地理学に拠って考うるに、その発祥地は実に一であって、今の亜細亜の西部であるようである。勿論、その発祥の当時、今日の如く亜細亜、欧羅巴、阿弗利加などの区別は無い。これは後世の区別であるが、亜細亜、欧羅巴、阿弗利加三陸結合点の付近、今の亜細亜西部のある地方である。而して文明の発祥地は、また勿論人類繁殖の最も盛んな地であるからして、これが気候地勢等の関係からして、一は東に、他は西に向って移動したのであって、西に向ったのは欧羅巴文明、即ち西洋文明の根原をなし、東に漸んだのは亜細亜文明、即ち東洋文明の種子であった。而して西向文明は希臘を経て欧羅巴の西北部に波及したのである。
 ことに宗教の如きは明らかにその発祥地を亜細亜に有する。仏教、基督教、回々教等が亜細亜に発したことは歴史上明白な事実であるが、ただに宗教のみならず、すべての学芸、美術はやはりその源を亜細亜に発して、世界に波及したのである。なおまた更に根本なる人類について観察しても、歴史、人類学、言語学、地理学上の研究を辿れば、またその発源地の唯一であることを発見するであろう。今日学術上の研究では、人類の発源地また文明の発祥地と帰一して、亜細亜西部の地とするの大勢である。
 この人種、文明、宗教等はその発源地を一とするけれども、東西に拡散し永く年代を経過する間に、気候、食物、風土等の差違からして次第次第にその発達を異にし、今日に至っては、全く別物なるかの如き外観を呈するのである。
 これを以て希臘人は東西両文明は調和せずと信じておった。羅馬人は如何に考えたかというに、羅馬時代に至って欧羅巴の文明も益々盛んになって来、且つ基督教も亜細亜から入り来って羅馬化したのではあるが、東西両文明の隔たりは愈々甚だしくなったからして、またそう信じたのであって、西向文明はその宗教、哲学、美術等に希臘的要素を交えて発展し、更に羅馬…

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