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文明史の教訓
ぶんめいしのきょうくん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「早稻田學報 第百八十七號」早稻田大學校友會、1910(明治43)年9月1日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2018-06-26 / 2018-05-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

歴史は活躍す
 世人は歴史について、ややするとかかる誤想を懐きはすまいか。歴史は過去の出来事を記述したり考証したり、つまり死んだ事件を取調べる検査官のようなものであると。しかし我輩は歴史学に対してかかる要求はせぬのである。歴史学という一の科学の一要素として、過去の事実を可成的冷静に考証したり、取調べるということも必要であるに相違ないが、但しそれは歴史の研究の全体ではない。頭脳の大なる人、乃至活学者には歴史上の事実は単に死んだものとしては表われて来ない。その人々の目には古い一見現代となんらの関係もない事件であっても、しかし事実が盛んに活動して生命を持つものとして表われて来る。この点に於て我輩は文明史を学ぶことを好むものである。

日本人の覚悟
 我輩は屡々世界の人としての日本人の覚悟に関して述ぶるところがあった。日本人は既にこの土地の上ばかりの日本人ではない。海と陸とを越えて世界を縦横に活動すべき権利を与えられたる世界の人としての日本人となったのである。果して然らば日本人の覚悟は蓋し容易なことではないのである。日本人は自分で従来有しておった文明を充分に理解するばかりでなく、自分等と同種族の東洋全体の文明を了解するばかりでなく、また同時に永い歴史を有する欧羅巴の文明を充分に受け入れ、それを批評するだけの要意がなければならない。いやもう日本は既にその大きな仕事に着手しているのである。そこで我輩のいわゆる文明の批判という大事な能力を、日本人が充分に持っているか如何。我輩の心配するところはこの点である。一度国を開いて世界の文明に対した以上、あらゆる文明は非常な勢いをもって押し寄せて来る。あたかも洪水の如くに流れて来る。その時に少しばかりの防禦工事や何かでは少しも役に立たぬのである。而して既にその有様は今の日本の新しい文明に表われて来ておりはしないか。その新しい無数の文明を明らかに理解して、これに対して正しい批判を与える力があることを証しているや否や。

成熟せる文明
 欧羅巴の文明は既に成熟した文明である。もうそろそろその弊を伴いつつある文明である。これを我が日本人――日本人は子供であると我輩はいう――が喜び迎えなければならない。何となれば、実際に欧羅巴の文明は我が国を導いてくれたし、今もなお利益を与えつつあるが、また弊害も寄与しつつあるのである。それを日本人は自覚せぬようである。

文明の生命
 注意して世界の文明史を学ぶと、文明の生命は果して永久に継続するものであるや否やという疑問が生じて来る。同じ文明が永久にその生命を持続してその国の歴史を飾るということは、世界の歴史にほとんど無いところである。何時かはその文明が生命を喪失して、別の新しい文明が取って代る。国家の上からはこれを滅亡という。文明史の上では文明の退歩という。文明の退歩という自然力に対して、人間は全然無…

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