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列強環視の中心に在る日本
れっきょうかんしのちゅうしんにあるにほん
作品ID58115
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2020-06-29 / 2020-05-27
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 文明はすべて調和なり
 一切の文明が、すべて調和である。政治、法律、科学、経済、哲学、宗教、文学、芸術、すべてが調和を図るところに進歩の光明が有り、調和を図らざるところに衰亡の陰影が伴う。万般の事、謙虚自ら処り、勉めて他の長を取り自己の短を補えば、其処に高き文明と低き文明との調和が成り、それが日常の実生活の上に現れて、富裕を致し、国運も隆昌になる。即ち、調和には謙虚が必要であるので、もし然らずして、倨傲自ら処り、唯我独尊、他を視る事卑く、従って自己の短を補うに他の長を以てするの工夫を怠らんか、ただに限り無く実生活を向上する能わざるのみならず、異なる文明と文明との間には調和を得ずして衝突が起り、ついに戦禍を招いてその国はあるいは衰えあるいは亡ぶるに至るのである。
 今度の欧羅巴戦争が大なる教訓である。独り独人が倨傲なりとは言わぬ。英人もまた倨傲である。いわば、倨傲と倨傲との衝突である。独人は、僭越にも日耳曼文明が他に卓越しており、従って、これを所有する独人は一種の超人であると自負して、汎日耳曼主義を唱うれば、英人もまた英国文明が他に卓越して自己の民族が偉大であると自信し、あえて大英国主義を奉じている。この自負心と自負心とが衝突して、両々相下らざるの結果、ついに今日の如き、漠々三閲年、なお結んで解けざるの戦雲を捲き起したでないか。
 否、独り独と英とのみではない。露西亜人はスラヴ民族を以て優秀なりと認むれば、仏蘭西人は拉典民族を以て優秀なりと認める。而して、皆相持して下らぬ。即ち、其処に禍機が潜伏するのである。否、独り英、独、露、仏のみとは言わぬ。茫々たる三千年の歴史が、一々これを実証している。一時、猶太王国に全盛を誇りしイスラエル文明は如何になったか。一時、羅馬帝国に全盛を誇りしラテン文明は如何であったか。皆自ら高しとして、他を学ぶを知らざるの結果は極めて保守的に傾き、従って時勢の進歩に後れて、ことごとく衰亡し去るの已む無きに至ったではないか。
 吾人は、幸いにかかる固陋なる迷路を走ることを為さず、東西文明の調和に勉めて来た結果、能く覆没の難より免れて今日の地位にまで国運を導いたのである。そして、その基を為すものは、実に先帝のご聡明と大御英断に因るのである。しかしながら、百里を行く者は九十里を以て半ばとなすとの戒めもある如く、吾人の前程はなお遼遠で、精神、物質、いずれの方面を見ても、その文明は未だ大いに誇るに足るものあるなく、その素質を論ずれば、将来、大いにその泰西文明と角逐してその右に出ずるを得べき力を有するとは確信しているけれども、今日のままでは、未だ雁行だもするを得ぬ状態にいる。いわば、百里の道の十里か二十里くらいのものである。九十里を半ばとするというに、十里二十里にしても、早くも懈怠の念を起しては如何になるか。吾人は、前程のあくまで遼遠なるを思うて…

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