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始業式訓示
しぎょうしきくんじ
作品ID58117
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「早稻田學報 第貮百九拾壹號」早稻田大學校友會、1919(大正8)年5月10日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2018-04-04 / 2018-03-26
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔すべて時代に従って発達する〕
 学生諸君、もはや諸君に向って学校内部に於ける細かな訓示を致す必要はないと思うのである。ただ英発の気を以て満たされたところの諸君に向って時代の精神を述べることは決して無用に非ずと思うのである。早稲田大学がかつて東京専門学校と称えた以来ここに三十有七年、初めこの学校を起したところの学問の独立という主義は今日に至るも少しも変化はない。しかしながら学問は時代に従って漸次に発達する性質をもっている。学問のみならず人世社会の事すべて時代に従って進化する。時代に順応して発達する。学生もまた大いに発達したようである。諸君の顔色を見ると顔の色が頗る宜しいようである。初めは顔色蒼白な学生が多かったがこのたびはそういう学生は少ない。見渡す限り血気盛んなる顔色を表している。同時に体力も幾らか発達したようである。これは最も喜ばしいことである。
 ここに学問が発達して専門学校が大学となり、時代要求の結果は相当の程度に達したところの大学には公私を区別せずして均しく大学の待遇を与えるということになったのである。我が早稲田大学も早晩……早晩というよりは当年中に全然大学令に依って大学となるに相違ないと信ずるのである。これは形であるが、しかし形もまた軽蔑することを得ない。形が一層学校の競争心を励ますのである。帝国大学その他の大学と競争するのである。競争は大切なものであって、学問のみならず人生の事は皆競争に依って発達する。すべて文化の進歩も競争に依って発達するのである。然らば競争は文化の母なり。今まで早稲田大学は帝都の僻隅にあって天下を睥睨して威張っておったけれども、社会からあれは私立大学だと言われて、価値のないものの如く俗人から誤解されておった。ところが形の上で公私の大学の区別が無くなってしまうのである。ある条件を備えて、ある程度までの設備をなすに於ては更に区別無しというのである。そうすると専門学校が大学になり、今度は帝国大学の仲間入りをするということになって来る。
 然らばこの後はケンブリッジ、オックスフォード、その他仏蘭西の大学、独逸の大学、世界文化の進んでおるところの大学と競争する、こういうことになる。今まさにその準備をなしつつあるのである。諸君の今の境遇と早稲田大学の境遇とは同じである。諸君はまだ卒業していない。今まさに努力して競争しつつある。世界の優等の大学と競争するその初歩に在るのである。早稲田大学の境遇は諸君の境遇に能く似ているというべきである。

〔世界改造と自由独立の権利〕
 這般世界に於ける大乱の結果、世界改造という事が起った。果してこの理想が実現されて将来の世界は全く改造されて、戦いを止めて平和の下に平和的競争に依って人生の幸福を捗らすことが出来るや否やということは疑問である。しかしながら疑いもなく世界は頗る小さくなって、而して平和に一歩足…

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