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始業式に臨みて
しぎょうしきにのぞみて
作品ID58118
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「早稻田學報 第三百十五號」早稻田大學校友會、1921(大正10)年5月10日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2018-04-04 / 2018-03-26
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔早稲田は大講堂がない〕
 漸次増加する所の早稲田学園の学生諸君、もはやかくの如く群衆する所の多数の学生を容るる家のないということは諸君に対して甚だ申訳のないことである。しかしながら物は必要から生ずるのである。学生の数が増すと、余儀なくされて家が出来て来るのである。私は実際学校の事務には与っていない。そこで能くは存ぜぬが、今や学長が述べられた種々な事柄の中に一つ大切なるものが落ちておったではないかと思う。それは何であるかというと即ち家のことである。人を容るる家がないということは頗る遺憾である。この学校は来年を以て創立第四十年の祝典を挙げるのであって、既に一万四、五千の卒業生を出している。今一万以上の学生が集っているのに大なる講堂をもたぬというは実に遺憾である。寺には必ず堂がある。堂がなければ御経が読めぬという訳ではないが、少しく物足らぬように思う。学校の講堂もそうである。この事については学長はじめ必ず苦心惨憺たるものがあるであろうが、ここにこれを明言するだけの成算が未だ立っておらないのであろうかと思うのである。学長その他当事者に於て今一層の奮発を以て家を造って御貰いしたいと思う。
 近来世上の事業が漸次膨張するに従って、国家も社会も金が足らぬ足らぬといっている。ところがよくしたもので、これを救うために借款ということが近来流行する。社会は何万という学生を見殺しにはせぬと思うからして、家を造るために借款を起すことは出来得るであろう。諸君はこの学校を出た後には相当の地位を占められるに相違ない。多数の力は実に大なるものである。この学校を維持するものはこの学校から出たところの多数の卒業生であって、この人々は疑いもなく学校を維持することが出来るのである。そこで諸君を引当てに借款を起されたら宜くはないかと、先刻学長に勧告したのである。これは決して冗談ではない。この学校は天幕をもっておって何か事のあるときには、校庭にこれを張って集会の場処を作るのであるけれども、天幕では十分の役をしない。どうしても講堂を建つることが必要である。しかしてこれが実に学校経営の基礎をなすものである。

〔物にはセンターがなくてはならぬ〕
 冒頭に私がかく論ずるのは何のためであるか。家を造るといったのは決して無意味ではない。家がなくても御堂がなくても御経は読めぬことはない。大道に於てでも御経は読める。野外に於ても研究は出来る。しかしながら多数の人はどうしても集合しなければならぬ。この集合の力が実は恐るべく偉大なものである。この集合がないと人の力は散漫に流れるのである。どうしても力は集合しなくてはならぬ。人類は社会的に生存をなすべきものである。人類は国家的の動物である。これは集合ということを意味している。国家が成立すればその国家を統一する所の機関がなければならぬ。そういう訳で人類は何としても共同しなけ…

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