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女子教育の目的
じょしきょういくのもくてき
作品ID58119
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「をんな 第五卷第五號」大日本女學會、1905(明治38)年5月15日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2020-02-16 / 2020-01-24
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔日本婦人の地位〕
 日本は亜細亜諸国中婦人の地位が一番進んでおる。総じて亜細亜諸国では婦人が全く一家の内に閉塞せられて、憫むべき境遇に陥っておるにも拘わらず、日本だけは常に婦人が相当の地位をもっておるのである。ところが亜細亜の他の国に於ては、宗教の上、あるいは儒教の主意の上から、婦人が相当の地位をもっておらぬ。ことに儒教の上からは女子と小人とは養い難しという如き教義が社会の上にあった。それ故に女子がその中に打罩められて、社会と縁を切ってしまった。これが主に亜細亜諸国の堕落して国勢の振わないゆえんである。日本に於ても支那の教義は古くから伝わって、次いで千三百年以来仏教が入り儒教が入って来たに拘わらず、日本の婦人が支那の婦人と同一の運命に陥らなかったというのは、大陸の文明が日本に入って来ても、その文明の利益だけを収めて、そうして文明から起るところの弊害の大部分を、日本が幸いにこれを防いだからである。ごく平たい言葉でいえば、いわゆる彼の長を採って我の短を補うたという訳で、文学なり美術なり、あるいは種々のものの長を採ったが、仏教の教義から起り、もしくは儒教の意味から起るところの女を苦しめるという弊を盛んに防いだ。これがために日本が一朝世界の文明に触れて、直ちに彼の長を採るという暁に至っても、日本の風俗・慣習・道徳の上に甚だしい衝突が起らずして、世界の文明と日本の文明と旨く調和することが出来たのである。これをごく約めて断言すれば、婦人を苦しめた国は衰え、婦人に相当の地位を与えた国は進む。畢竟女を苦しめた国はいわゆる因果応報で、そういう国の衰えるのは決して偶然でないということになる。これが我輩の持論である。
 斯様に世界の文明が日本へ来たが、日本の文明もまた外国へ行く。今日の有様は水の平準に拡がるが如き勢いで物が調和する。日本に於ける一種の美術、あるいは美術を応用した工芸などが、東洋の美術といって独逸にも行き、仏蘭西にも行き、亜米利加にも行く。その美術を応用したものは陶器、漆器、あるいは種々の模様、あるいは染物の色合、室内の装飾などに於て日本の美術が幾らも外へ出て行く。この五十年来彼の長を採った上について、最も主なるものはあらゆるサイエンスである。日本の一番の欠点はサイエンスであった。それに次いでは政治の上に大いなる弊があった。あるいは軍隊の上にも種々足らないところがあった。然るに忽ちその巧妙なる兵器軍艦、それから軍隊の組織というようなものを、彼の長を採ってことごとくこれを良いものにしたのである。
 ところで婦人が相当の地位を占めておるに拘わらず、婦人の教育というものは、中以上の婦人こそ相当の教育を受けたけれども、もう中以下になると教育を受けない者もある。けれども小学教育は男子と女子とが同一の教育を受ける。すべて貧富貴賤を論ぜず同一の学校に於て同一に教育する。富める者…

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