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三たび東方の平和を論ず
みたびとうほうのへいわをろんず
作品ID58125
著者大隈 重信
文字遣い新字新仮名
底本 「大隈重信演説談話集」 岩波文庫、岩波書店
2016(平成28)年3月16日
初出「新日本 第四卷第五號 創刊三周年記念號 臨時増刊」冨山房、1914(大正3)年4月3日
入力者フクポー
校正者門田裕志
公開 / 更新2019-04-25 / 2019-03-29
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 極端より極端に移る対支政策
 我輩の東方平和論は、本誌に於ては今度を初めてとするが、前後を通じてこれで三度である。その第一回は今より約二十年前、ちょうど日清戦後列強の間に支那分割の形を現じた時であった。最初列強は支那を目するに眠獅を以てした。それは当時清朝の重臣曾紀沢の巴里に於ける演説に、自国を擬するに眠れる獅子を以てし、一たび覚醒せんか、支那はまた今日の支那に非ず、獅子一吼百獣震駭する底の猛威を振わん事を説いたためだ。即ち支那はあたかも盛んに西洋文明を採用して富国強兵の術を勉めた頃で、洋式の陸海軍を編成し、特に大沽砲台、旅順、威海衛の軍港を設くる等、その面目を一新するの概あり。この勢いを以て進まば、支那の将来侮るべからざるものがあった時とて、眠獅の一語は痛く列強の民心を刺激したものであった。然るに日清役起るや勝敗の結果は如何であったか。予期に反して支那は海陸共に連戦連敗であった。その頃支那の兵力は海陸共に我に優り、海軍に於ては当時すでに戦闘艦二隻を有していたが、日本にはその様なものなく、総噸数も甚だ少なかった。陸軍に於ても彼には李鴻章の部下に属し、洋式に訓練されて精鋭の聞えあった直隷軍をはじめとし、兵数は甚だ多く器機も最新のものを用いたが、我にはただ七個師団あり、それも今日とは違い、師団そのものの兵数も甚だ少ないのだから、実力は今日の想像よりも更に劣り、兵器もまた甚だ精良ならざるものであった。それ故欧米人の外情に通ずるものは皆等しく日本を危ぶんだ。日本国民は勇敢であるから、最初は勝つも知れぬが、最後の勝利は支那に帰するであろうと。かくの如きは独り日本に憎悪の念あるもののみならず、同情を有するものもまた同様の意見を抱いて憂えたのであった。然るに干戈一たび交えるや如何。支那は脆くも敗れて僅かに半歳を出でざるに、早くも李鴻章は馬関に派して和を請うに至った。これがかの有名なる馬関条約で、そして三国干渉の起ったのもこの時であった。
 支那は国大に民衆も多い。また特にその歴代の史跡に徴するに、支那を苦しむるものは常に北方の蛮族である。そしてこの北方の蛮族がついに中原を席捲して国礎を定めたのが、即ちこの愛新覚羅朝である。この怖るべき韃靼族が一たび訓練を経て文明的に軍隊を組織したならば、如何なる優勢の大軍をも編成し得ると思った。これが抑々欧米列強の支那を買被ったゆえんであったが、それが日本の力に触れて忽ち薄弱なる実力の遺憾なく外面に暴露され、その買被りたる事が知るると同時に、極端より極端に走る彼等列強の見解は、支那を以てもはや土崩瓦解拾収すべからずと思った。日本が更に一指の力を加うれば一溜りもなく潰乱すると思った。それが抑々かの三国干渉の来った有力なる一因である。
 支那すでに無力なりとすれば、次いで来るものは勢力範囲画定の問題である。この問題が当時盛んに起ったのであ…

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