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ルイ・パストゥール
ルイ・パストゥール
作品ID58162
著者石原 純
文字遣い新字新仮名
底本 「偉い科學者」 實業之日本社
1942(昭和17)年10月10日
入力者高瀬竜一
校正者sogo
公開 / 更新2018-09-28 / 2018-08-28
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

微生物学の発達

 人間の病気にはいろいろの種類がありますが、そのなかで最も恐ろしいものは伝染病であって、昔の時代にはコレラやペストや天然痘などの伝染病がひどく流行し、それで数えきれないほどたくさんの人々の生命を奪ったことも、ずいぶん度々あったのでした。そのほかにも伝染病の種類はたくさんにあるのですが、昔の人たちはそれらを恐ろしいとは思っていたものの、どうしてそういう病気が伝染するのかはまるでわからなかったのですから、ともかく神さまにお祈りするとか、いろいろのおまじないなどをして、それから免れようとするのがせいぜいであったのでした。ところでこのような多くの伝染病は眼に見えないほどの小さな黴菌からおこるのだということは、今では一般に知られていますし、ですから消毒を行ってその黴菌を殺してしまえば病気もなくなってしまうこともすっかりわかったのですが、それがこれほどわかったのは、つまりは微生物学という学問がすばらしく発達して来たおかげなのです。
 さて、この微生物学はいつ頃から始まったのかと云いますと、それはもちろん黴菌のような微生物を見ることのできる顕微鏡がだんだんに発達してからのことであるのは云うまでもありません。顕微鏡の最初のものは、虫眼鏡を利用してつくられたのですが、それは十七世紀の時代で、オランダのレーヴェンホークという学者が初めて水溜りのなかにある微生物を見つけ出したと云われています。微生物と云っても、もちろんその頃はどんなものかはっきりしなかったのですが、だんだんにその研究が進んで来て、十九世紀の半ば頃になってようやくそのなかには原虫類という動物に属するものと、細菌またはバクテリアと呼ばれる植物に属するものとあることがわかって来ました。またこのような微生物が見つけ出されてからも、それらの微生物はどこからか自然に湧き出てくるものだという考えが一般に行われていて、これはなかなか人々の頭を去らなかったのでした。もっとも十七世紀の時代に既にイタリヤのレーデイという動物学者は肉が腐っても蠅を近よらせなければ蛆が発生しないということを実験で示したのでしたが、微生物はまさかそうはゆくまいと、多くの人々は考えていましたし、また十七世紀の始め頃には、食料品を熱して缶詰にすると、いつまでも腐敗しないことがわかり、その方法が広く行われるようになったのにも拘らず、この際に微生物の発生しないのは、微生物に必要である空気が取りのけられているからだと云って、やはり自然発生を信じている人々もかなりあったのでした。ですからそういう考えの全く誤りであることが確かにされたのは、ようやく十九世紀の半ば過ぎのことで、そこには、ここにお話ししようとするパストゥールのたくさんの輝かしい研究が成されたからであるということを知らなければならないのです。実際に微生物学はパストゥールのおかげでどれ程進歩し…

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