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ロード・ラザフォード
ロード・ラザフォード
作品ID58163
著者石原 純
文字遣い新字新仮名
底本 「偉い科學者」 實業之日本社
1942(昭和17)年10月10日
入力者高瀬竜一
校正者sogo
公開 / 更新2018-08-30 / 2018-07-27
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

ウェストミンスター寺院

 イギリスのロンドンのテームズ河の北側に著名なウェストミンスター寺院というのがあります。これが最初に建てられたのは七世紀頃のことだと云われていますが、現在の伽藍はその後十三世紀頃に改造されたので、更に礼拝堂や高塔などがなお後に建て増されたのでした。ところでこの寺院はイギリスの帝王の戴冠式がいつもそこで行われることや、代々の帝王皇后の墓処にもなっているので、イギリスでは第一に重んぜられているのですが、そればかりでなく国家に功労のあった人々の墓碑をもそこに置くことになっているので、ここに葬られると云うことはイギリス国民の最高の栄誉とせられているのです。今日までにこの栄誉にあずかった人々の中には、政治家や、軍人などの外に、たくさんの詩人、文学者などと、相並んで、科学者の名をもかなりに見出だすことができるので、この事はそこで学問がいかに尊重されているかを示すのでもあり、この点は大いに羨まれなくてはならない処でもあると思われるのです。
 さて、この科学者のなかには、有名なニュートンを始めとしてロード・ケルヴィン、マクスウェル、ファラデイおよびその他の名だかい人々がそこに見出だされるのですが、最近には科学者として世界に普ねく知られていたロード・ラザフォードや、サー・ジョセフ・ジョン・タムソンが同じくここに葬られる栄誉をにないました。これは、もちろん当然のことと思われますが、それで見てもここにお話ししようとするロード・ラザフォードがどれほど偉大な仕事をしたかがわかるのでしょう。ラザフォードの亡くなったのは今から五年前、即ち一九三七年の十月十九日でありましたが、その月の二十五日にこのウェストミンスター寺院で葬儀が厳粛に行われました。その日はイギリスに特有な秋日和の美しい日であって、国王陛下の代表者や政府並びに学界の首脳者がこれに参列し、寺院の内陣の南側にその遺骸が葬られたのでした。そして葬儀は厳粛ではあったが、また簡素でもあり、「陸海将官の葬儀に見るようなものものしい盛観や美麗さもなく、彼の生涯や業績について何事も語られなかったが、しかし粛然たる静謐な空気が全堂宇に充ちわたり、これこそ彼が願望したすべてであったと云う印象を消し難く残した」と云われています。まことに高邁な学者の一生にふさわしいものであったように思われますし、ここに自然研究に終始した彼の真意をよく活かしているとも感ぜられるのです。

ラザフォードの生涯

 ラザフォードは、その名をアーネストと云い、ニュージーランドのネルソンと云う町の近郊のブライトウォータで一八七一年の八月三十日に生まれました。後にロードの爵位を授けられたのは一九三二年のことでありますが、その称号をロード・オブ・ネルソンと云うのはこの生地に因んだものであるのでした。幼時から学業にすぐれていましたが、一八九四年には特に選…

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