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瀬戸内海の海人
せとないかいのあま
作品ID58320
著者柳田 国男
文字遣い旧字旧仮名
底本 「定本柳田國男集 第一巻」 筑摩書房
1963(昭和38)年9月25日
初出「民族 第一巻第一号」民族発行所、1925(大正14)年11月1日
入力者フクポー
校正者きゅうり
公開 / 更新2020-08-08 / 2021-12-08
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 藝州御手洗(豐田町大崎下島)の邊で聽いた話。此附近ではリョウシと謂へば海人のことである。即ち頭の上に物を載せてあるく、他の地方でイタダキ、オタタ、カネリなどといふ女の一族を意味して居る。
 忠海などでは之をカベリと喚んで居る。カベルとは斯うして頭に物を載せる行爲を表する動詞である。
 カベリは忠海にも居り、又尾道にも澤山居る。交際は少しも普通とちがはぬやうに見えたが、内實はどうであるか知らぬ。
 大崎島でも又生口島などでも、常人は少しも漁をせず、眞宗の盛んな村では釣をさへ厭がつてしない。海の際に住みながら、魚類は悉くリョウシの女の、頭に載せて來るものを買つて居る。
 東生口の原と云ふ部落で、試みに四十前後の婦人に向つて、リョウシの處へ嫁に行く子があるかと尋ねたら、あるもんですかとはつきりと答へた。
 大長村(大崎下島)の村はづれにも、若干のリョウシが住んで居る。久友村大字久比からも遣つて來る。豐島(豐濱村に屬する島)には多數住んで居る。但し他の多數は所屬の村が有ると云ふのみで、家族と共に始終船の中に住み、家と云ふものを持たぬ。
 リョウシの船では女も共に漕ぎあるいて居る。屋根を板で葺いた船もあつた。
 但し女が乘つて居るから皆リョウシと見ることは出來ぬ。此節は只の船頭の女房も、自由に船に乘つて亭主を助け且つ監督して居る。蚫を取る作業は此邊には少しも無くなつた。來島瀬戸近傍では採れるが、すべて潜水夫の仕事になつてしまつて居る。
 アマと謂ふ語は、よほど注意して居たけれども、終に聞くことを得なかつた。使はぬのであらう。瀬戸内海の事情に明るい諸君から之に關聯したもつと精確な話を承はりたい。



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