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食料名彙
しょくりょうめいい
作品ID58443
著者柳田 国男
文字遣い新字新仮名
底本 「柳田國男全集20」 ちくま文庫、筑摩書房
1990(平成2)年7月31日
初出「民間傳承八卷二號~八號」1942(昭和17)年6月~12月
入力者フクポー
校正者木下聡
公開 / 更新2019-07-31 / 2019-06-28
長さの目安約 63 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

序 諸君の『食習採集手帖』が整理せられたら、この語彙はまた大いに増加することであろうが、それを促す意味をもって、まず自分の今までに控えておいたものを並べてみる。この中には救荒食物は入っていない。またいわゆるいかもの食いの食えば食えるというものも入れてない。我々の目的は通常の生活を明らかにするにあるゆえで、また昔食ったというだけのものも入れない。
マスモノ 五穀の総称として桝物という語がある(土佐方言の研究)。佐渡でもマスノモノ。米麦などの桝で量るもののことである。亥の子の日には桝の物をいっさい外に出さぬなどという。
キチマイ 吉米。よき米ということをいつの頃よりか音でいう。これ糯米と区別する名というのは(淡路)、後の解であろう。もとは常の日は粳米より悪いものを食っていたからで、それには屑米また粟、稗の類も算えられたことと思う。
シャクノコメ 粳米をシャクの米ということは四国ばかりでない。鹿児島県十島の悪石島でも、粟に糯と粳との二種があり、後者をサコアワまたはシャアクともいう(民族学研究二巻三号)。シャクは瓢のことで、「ひさご」という語から導かれている。これも桝物と同じに瓢で量って使う粟の義と思われる。器をもってはかるのは、人別に定量があったことを意味する。すなわちそれが桝の最初の用途である。
ヨネスル ヨネは農家では稲米だけに限ってはいなかった。たとえば信州遠山では、粟などの搗いて外皮を剥いたものもヨネである(方言六巻一号)。天竜川を越えて三河の北設楽郡でも、稗、麦ともに皮をとって精げることをヨネスルという。ヨネしたものは家の中の物置に置く。籾のままなのは外のアラモノ庫に入れて置く。アラモノとは脱[#挿絵]せぬ穀物の総称である。
イマズリ 籾で貯えておいて、盆の頃になって籾摺したものをエマズリすなわち今摺という(頸城方言集)。普通の食料には早くからまとめて摺っておき、かついろいろの調合をしてすぐに炊けるようにして貯えてあったのである。
ケシネ 語原はケ(褻)の稲であろうから、米だけに限ったものであろうが、信州でも越後でもまた九州は福岡・大分・佐賀の三県でもともに弘く雑食の穀物を含めていうことは、ちょうど標準語のハンマイ(飯米)も同じである。東北では発音をケセネまたはキスネと訛っていう者が多く、岩手県北部の諸郡でそれを稗のことだといい、また米以外の穀物に限るようにもいう土地があるのは(野辺地方言集)、つまりは常の日にそれを食していることを意味するものである。南秋田郡にはケシネゴメという語があって、これは不幸の場合などの贈り物に、布の袋に入れて持って行くものに限った名としている。そうしてその中にはまた粟を入れることもあるのである。家の経済に応じて屑米雑穀の割合をきめ、かねて多量を調合して貯蔵しおき、端から桝または古椀の類をもって量り出す。その容器にはケセネギツ、…

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