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大唐田または唐干田という地名
だいとうだまたはとうぼしだというちめい
著者柳田 国男
文字遣い新字新仮名
底本 「柳田國男全集20」 ちくま文庫、筑摩書房
1990(平成2)年7月31日
初出「郷土研究二卷五號」郷土研究社、1914(大正3)年7月1日
入力者フクポー
校正者木下聡
公開 / 更新2020-01-26 / 2020-01-06
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 トウボシという稲について、本誌紙上質問の第一号に答を求めたのは自分であった。残念ながらこの稲の特殊の由来に関してはいまだ多く得るところがない(郷土研究一巻二五一頁、六三七頁等参照)。トウボシの実飜れ多きこと、及びこれを糒にすることも事実であるが、それが名称の起原だという説の信じにくい理由は、前者については怪我にもトウコボシまたはトウコボレと呼んだ例を聞かぬこと、後説に付いては稲を乾飯というのが家猪をハムと呼ぶと同様不自然であることである。トウボシという語は全国に通用している。『沖縄語典』によれば、沖縄では赤米をアカグミーまたはテァウブシャという。古い伊予の農書『清良記』七巻上に、太米(大唐米の一名)の八品を列挙し、その第七に唐穂生がある。要するにこの稲の伝来を詳かにするにあらざれば名義の知りがたきはもっともである。自分にも多少の説があるが、まずトウボシという名称を帯びた地名を挙げておこう。
常陸真壁郡太田村大字野殿字唐米
下総千葉郡千城村大字小倉字唐籾
上総市原郡五井町大字平田字当干田
安房安房郡曾呂村大字上野字唐穂種田
磐城相馬郡大甕村大字雫字遠摸志
陸前加美郡大村――字当宝志
下野河内郡吉田村大字中川島字遠星河原
甲斐西山梨郡住吉村――字トウボウシ田
石見美濃郡小野村大字戸田字小野谷小字[#挿絵]田
肥前杵島郡武内村大字三間坂字唐干田
大隅姶良郡[#「姶良郡」は底本では「始良郡」]牧園村大字万膳字斗星田
 これは多くある同種の地名の中から数例を抜き出したまでである。自分はまた大唐田という地名をも集めてみた。丹後・但馬・美作・備前・備中にかけていくらもある。農夫が稲を選択するのは自由であれば、特定の稲の名を地名に負うはずがない。ゆえにこれらの地名ある田は、トウボシでなければ作れない場処、すなわちドブまたはフケまたはクテなどと称する卑湿の水腐場に限ったものと思うが、果してそうであるかを検してみたいものである。かりにしかりとすればトウボシは第二期の開拓の時に始めて採用せられた稲種なりと言い得る。自分はなおその上に第二次の植民が持ち来たったものとまで言いたいのであるが、稿を改めて教えを受けるであろう。
(「郷土研究」大正三年七月)



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