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『言林』跋
『げんりん』ばつ |
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作品ID | 58500 |
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著者 | 新村 出 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「新村出全集第九巻」 筑摩書房 1972(昭和47)年11月30日 |
初出 | 「言林」全国書房、1949(昭和24)年3月 |
入力者 | フクポー |
校正者 | きゅうり |
公開 / 更新 | 2019-06-27 / 2019-05-28 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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ここにわが親愛なる『言林』の完成に当って一言を述べて記念としたいと思う。
平和後、思想・制度等万般事象の百八十度の転換、教育・文化さては文章表現法の激変等の結果、旧来の国語辞典が現代人の欲求を満たし得ないことは万人のひとしく認めるところである。社会人の飽くなき熱烈な要求にもかかわらず、当然あらわるべき良辞典の出なかったことは、文化事業に対する理解度や資金・用紙・印刷等の悪条件のあいろの打開に並々ならぬ労苦を要するからであろう。新進の出版文化人全国書房社長田中秀吉氏は文化開拓の実現を期し、荊棘の中に新路を開き、万難を排して国語文化革新の燈明台たるの意気を発露せられ、編者をして、この難事業を完成せしめられたることは真に感銘の至に堪えない。更に氏はその統理せられるところの新進の社員数十名を遇するに肉親的恩愛を以てし、全社員各位もまた社長に仕えること師父の如く、いわゆる天の時と人の和とを得たること、この辞典完成の偉大なる原因たることを信ずる。
本書収むるところの語彙十五万百五十二語、特に最新の外来語・新造語の解説に意を用いた。従って新刊行書・新聞紙等の恩恵を得たことが多い。外来語特に地理名などについては専門家小牧実繁博士の一閲を求め、又、説明文中の当用漢字の検討に対しては、栗林貞一氏の周到な調査・研究を煩した。併せてここに謝意を表する。
上述の如く、本辞典の完成は全国書房田中社長以下社員各位が、校正に、印刷所その他内外の連絡に和衷協同、長き月日にわたっておうしょうされたが、特に社員近藤孝一氏は原稿の整理、内外の交渉、校正事務の統一等百般のことにわたって心身の一切を捧げ、全く事務的観念を離れて、奉仕これこととせられたるは、編者の真に感激に堪えないところである。社員生産部長横山喜代治氏及び島本彦次郎氏等を始め、多くの社員各位の芳名を挙げて一々その誠意に対して感謝の意を捧げたいのであるが、却って煩にすぐる嫌なきかを恐れて簡省に致したことを諒恕せられたい。終りに臨んで日本写真印刷株式会社が社長及び営業部長鈴木義道氏を始め工員各位が関西最初の出版たる本国語辞典の発刊に特に共鳴せられ、全機能を挙げて本書のために努力の限りを尽くし、完成の美を完遂せしめられたることを深謝する。(昭和二十四年三月)