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地名の研究
ちめいのけんきゅう
作品ID58544
著者柳田 国男
文字遣い新字新仮名
底本 「柳田國男全集20」 ちくま文庫、筑摩書房
1990(平成2)年7月31日
初出地名の話「地学雑誌 第二四年第二八六号~第二八八号」東京地学協会、1912(大正元)年10月15日、11月15日、12月15日<br>地名と地理「地理学評論 第八巻第五号~第六号」古今書院、1932(昭和7)年5月1日、6月1日<br>地名と歴史「愛知教育 第五五九号」愛知県教育会、1934(昭和9)年7月1日<br>地名考説 一~四、一九後半、三一後半「民族」民族発行所、1926(大正15)年5月~1927(昭和2)年3月<br>地名考説 五~一八、一九前半、二〇~二二、二五~二八、三一前半「歴史地理」三省堂書店、1910(明治43)年2月~1912(明治45)年8月<br>地名考説 四五~四八「土俗と伝説」文武堂書店、1918(大正7年)8月~1919(大正8)年1月<br>地名考説 五五「考古学雑誌」聚精堂、1911(明治44)年5月15日<br>地名考説 二三~二四、二九、三〇、三二~四四、四九~五四「郷土研究」郷土研究社、1913(大正2)年3月~1917(大正6)年3月
入力者砂場清隆
校正者北川松生
公開 / 更新2019-08-08 / 2019-07-30
長さの目安約 355 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

自序



 始めて自分が日本の地名を問題にしたのは、この本の中にもある田代・軽井沢であった。田代がどこに往ってもかなりの山の中にばかりある理由が何かあるらしく思われたのが元であった。算えてみるともうその頃から、優に三十年を越えている。三十年もかからなければ一冊の本も出せぬような、大きな研究項目ではもちろんない。むしろあまりに小さくかつ煩瑣なる仕事であるがゆえに、多くの人がこれに入ってみようとしなかったのである。私は境涯と資性と、ともにおそらくは誰よりもこれに適していると信じたので、さまでの努力を要せずに自身衆に代ってこの労務に服せんとしたのであるが、それでもなお中途幾たびとなく休息し、また往々にして決意の撓むことを免れなかった。今頃これくらいのものを纏めて世に問うことは、少なくとも内に省みて自ら責むべきものあるを感ずる。
 我々の仲間では、問題解決の主要なる動力のいつでも外にあることを認めている。いかに不退の熱心をもってじっと一つの不審を見つめていようとも、いまだ時到らずして依拠すべき若干の事実が見つからない限りは、その疑惑はなお永く続かなければならぬのである。各人の刻苦の効を奏する途は、練習によってできるだけ敏活に、必要な知識の所在を突き留め、またその一片をも無用に放散せしめず、それぞれの役目を果さしめるより他にはない。そうしてこの間における学問の楽しみは、不十分な資料によってかりに下したる推断が後日これを検してまさしくその通りであったのを知ること、及び問題を愚痴雑駁なる附随物から切り離して、最も簡明また適切なる形として他の同志に引き続ぐことにあるのである。自分などもただこれを温かい日の光と仰いで、広い野外にひとり働いていたのであるが、年を取るにつれてこの心持が少し変って来た。まことこの問題が次に来る日本人にとって、必ず究明せられねばならぬ好い問題であるかどうか。今日の仮定説の果してどの部分が、中らなかったねと言って笑われることになるのであろうか。それがだんだんと心もとなくなって来るのである。この際に当ってわが山口貞夫君が、自身この『地名の研究』の全篇を精読せられたのみならず、これを総括して改めて世に遺すことを慫慂せられ、さらにその整理校訂の労までを引き受けてくれられたことは、自分としては抑制しあたわざる欣喜である。望むらくはこの少壮地理学者の判断と趣味が、やや多数の新時代人と共通のものであって、必ずしも好むところに偏したものでなかったことを、この書の寿命によって証明するようにしたいものである。
 地名は数千年来の日本国民が、必要に応じておいおいにかつ徐々に制定したものである。その趣意動機の千差万別であるべきことは始めから誰にでも判っている。それをアイヌ語ならアイヌ語のただ一側面ばかりから説こうとすれば、かりに論理は誤っていないにしても、なお脱漏がありま…

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