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柿の木のある家
かきのきのあるいえ
作品ID58602
著者壺井 栄
文字遣い新字新仮名
底本 「壺井栄童話集」 新潮文庫、新潮社
1958(昭和33)年3月20日
初出「柿の木のある家」山の木書店、1949(昭和24)年4月20日<br>「海のたましひ」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年6月14日
入力者諸富千英子
校正者芝裕久
公開 / 更新2020-08-05 / 2020-07-27
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 フミエと洋一の家には、裏に大きな柿の木が一本あります。それは子どもの一かかえもあるほどりっぱな木でした。小さい木は幾本もありましたが、とびぬけて大きいのは一本だけです。柿のあたり年は、普通一年おきだということですが、この柿は毎年なるのでおじいさんが生きている時分にはじまんのたねでした。こんな柿は村に二本とないからです。その実の大きくてうまいことといったら、三太郎おじさんなど、柿の実のうれるころになると、まるで子供のようにうれしそうな顔をして、柿をもらいにきました。
「まったく、柿も年をとるとだんだん実が小さくなるというのに、これはめづらしいですな。来年の春には一つ、この木をつがしてもらいましょう。」
 そのくせおじさんは春になると、つい柿のことをわすれてしまいました。
「おじいさんにそういって、うちの小さい木を一本もらえばいいのに。」
 あるとき洋一がそういうと、おじさんはにこにこしながら、
「いいよ。しんるいなんだから、柿ぐらい食べにきてもいいだろ。」
 といいました。三太郎おじさんの家はフミエや洋一のおかあさんのおさとで、おじさんは二人のおかあさんの弟です。その上三太郎おばさんは洋一たちのおとうさんの妹なのでした。つまりお嫁さんをもらいっこをしたことになります。三太郎おじさんも洋一たちのおとうさんと同じように昔は船のりになるつもりで商船学校にまで入ったのだということですが、まだ学生のときに大病をして、それがもとで今はお百姓になったのだそうです。三太郎おじさんは子供がないので、フミエや洋一をわが子のようにかわいがり、なにかというとからかうのがくせでしたが、いくらからかわれても二人はおとうさんの次に三太郎おじさんをすきで、おかあさんの次に三太郎おばさんをすきなのでした。三太郎おばさんはいつとなく二人がつけたあだ名で、本当の名はツネ子といいました。おばさんも、おじさんと競争で二人をかわいがってくれました。三太郎おじさんの家にはみかん畠はもとより、桃畠、梨畠、ぶどう畠にいちぢく畠と、それから家のまわりには杏や栗の木などもありフミエや洋一はその木々のためにも三太郎おじさんをすきにならずにはいられないほどなのです。それなのに、なぜか柿の木だけは一本もありません。いかな一本もないのです。そのくせおじさんは柿が大好物で、まだよくうれない中から、早くもってこいとさいそくをしました。もってゆくと、まだおつかいのフミエたちがいる前ですぐに皮をむいてたべました。たべながら「うまい、まったくうまい。柿はくだものの王様だからな。とくにこの柿はな。」
 だからフミエも洋一も柿のおつかいは大すきでした。柿をもってゆくとおじさんはきまったように、
「そのかわり、いまにみかんがうれたら、食いほうだいだよ。」
 とか、
「おいもはいらないかね。」
 などといいながら、ぶどうや梨をたく…

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