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江戸推理川柳抄
えどすいりせんりゅうしょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」 三一書房
1993(平成5)年1月31日
初出「旬刊ニュース」1948(昭和23)年11月号
入力者フクポー
校正者高瀬竜一
公開 / 更新2018-05-17 / 2018-04-26
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 推理川柳とは、私が仮りにつけた名称であって、推理を含んだ川柳という意味である。
雷も雀がなけばしまいなり
 この句の味い方を、推理川柳の立場からしてみると、「雷があばれているうちに、雀が鳴きはじめると、もう雷鳴はおしまいになると推理してよろし」というわけ。この法則は、雷嫌いの多かった江戸時代の人々にたいへん重宝がられたことであろう。「あッ、雀が鳴きだした。もう雷さまは行ってしまうぞ。やれやれ」と、蚊帳から匐い出す。
 この句の扱っている内容が、推理川柳の好見本だとはいわない。もっといい推理川柳が少からずある。しかしこの雷と雀の鳴き声の如き取扱いをしている句は、江戸川柳の中に至るところに散見する。
 これを、一種の勘として認めたこともあるようだが、本当はやっぱり推理である。そして江戸人は、駄洒落や地口と同じ好みの方向において、こうした市井生活に関係の深い勘――実は真理を摘発することに大きな興味を持っていたものと思われる。
男湯を女がのぞく急な用
焼香を先へしたので後家と知れ
合羽やへ馬かたが来りゃさむく成り
にげしなに覚えていろはまけたやつ
内談と見えた火鉢へ顔をくべ
飛びこんでこようが煤の仕廻い也
あがるなといわぬばかりの年始状
油屋のかいで出すのは値が高し
晴天に持って通るはかりた傘
中腰で割るのがまきの仕廻い也
引出をひんぬいて来る急な用
時々顔をちょぴっと見るほれたやつ
通りぬけ無用で通りぬけが知れ
 このように並べて来た句は、同じ傾向の推理川柳である。これらの句の作者は、岡っ引に転向しても、きっとうまく勤めおおせたことであろう。いや、いや大岡越前守ぐらいにはなれる素質があると褒めても、褒めすぎはしまい。
 右の句より、やや高級な推理川柳がある。それを少々挙げてみよう。
橋の番てっきり投げた水の音
風鈴のせわしないのを乳母と知り
井戸がえは深さを横に見せる也
此頃はつくるに亭主気がつかず
よい娘なんのいしゅだか悪くいい
試みにつめってみればむごん也
桐の木のもくで娘の年が知れ
あれを呼ぶ気だよと伯父が星をさし
雁列をみだしてばれる村出合
乳の黒み夫へ見せて旅立たせ
若いごぜ壁をさぐって一つぬぎ
ひとりでに釣瓶のさがる物すごさ
 これらの句は、推理川柳として上乗の作品であると思う。
 中にも「橋の番てっきり投げた水の音」は断然光っている。その水音を身投げと聞き分けるには技術が要る。橋の番は、その特殊な判定力を持っていて、それで水の音を聞き分け、「てっきり投げた水の音」と断定するところは、うれしいかぎりである。
 推理の力で、事件を見つける。それを川柳に作ったものがある。
明キ店のくしから尻がわれるなり
 そのくしをつきつけて、二番手の申入れをするのが普通だったらしく、そういう句もある。
あの男かさけがあると後家ハ言イ
 後家さん、あとであッと口をふさい…

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