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副題――芝公園 女の殺人事件――
――しばこうえん おんなのさつじんじけん――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」 三一書房
1993(平成5)年1月31日
初出「読売ウィークリー」1946(昭和21)年8月24日号
入力者フクポー
校正者高瀬竜一
公開 / 更新2018-05-17 / 2018-04-26
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「――観音さまの?」
「――ええ、芝公園増上寺の境内に若い女の絞殺体が二つ、放り捨てられていたというんです。ちょっと新聞の記事を読んでみましょうか――
『十七日(昭和二十一年八月)午前九時半ごろ東京都大森区大森五の一〇三樵夫吉沢新三さん(四  一)が芝公園増上寺境内西向観音裏山で伐材中、付近の笹やぶの北側の大欅の根もとに全裸体俯向けの二十歳ぐらい、死後十日を経過した女の腐らん死体を発見した。愛宕署から捜査主任以下が急行死体の検証を行ったところ現場から約十間上ったところにまたも別に死後二十日ぐらいを経過した、肩切れ白ブラウスに井桁格子のスカートをはいた二十歳ぐらいの女の腐らん死体を発見。東京地検局から伊尾検事以下も急行したが、最初の死体はネクタイか手拭で絞殺したものと見られ、ネズミが食い散らしてあり、後に発見された死体もトビが喰い散らした形跡があって人相その他は全然判らないが、いずれも両足を開いている……』
「――ちょっと! 西向観音裏山とか笹やぶとか、ざっとでいいから現場付近の様子を教えておいてくれたまえ」
「――現場は、高さ三十メートル、周囲三百メートル余りの雑木山で深い笹藪におおわれていて、二すじの小径が通っている。死体は頂上に近い小径のすぐ傍、十間ほどの笹藪のなかで発見されたんです。この付近はご存知でしょうが昭和五年以来、芸者、人妻、などの殺人事件があったという因縁の場所。ちかごろは、毎晩十二時、一時まで闇の女たちの、舞台になっていたという、昼間でも合意のうえでなければちょっと立寄れぬようなところなんです」
「――で、いまのところ捜査本部の見通しは?」



「現場からちょうど二十メートルばかりはなれたところで引き裂かれた木綿の腹巻がひとつ発見され、これが裸体の女の絞殺に用いた細紐とほぼ同じらしいんですが、これも極くありふれたものなので有力な手がかりというまでには至っていないんです。同一犯人か、或は偶然ぶつかり合った別個の事件か――捜査本部では同一犯人説と同一犯人でない説と、さらに犯罪の動機が痴情関係からか、物とりからか、に対立しているようですが白骨体のほうは着物を着ているし、小径からすぐ発見されるような場所にあったところから密会したと考えられる点。もう一つのほうは全裸であることと死体も発見されにくい場所に捨てられてあったこと、絞殺した細紐の結び目が違っていたという点などから推して僕は、別個の事件じゃないかと考えるんですが……?」
「――或はそうかもしれぬ。が、僕は犯人はひとりだと思うね。
 ――紐の結び方もひとつの鍵にはなり得るが、この場合そう問題になるとは思わない。……ある男、犯人が、偶然そのへんで知りあった闇の女と連れだって雑木山をさまよい、れいの笹藪のところで交渉を果す。場所といい、狼藉格闘などの跡の見られぬ点といい、明かに暴行ではない…

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