えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID587
副題28 お蘭しごきの秘密
28 おらんしごきのひみつ
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(三)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者kazuishi
公開 / 更新2000-04-14 / 2014-09-17
長さの目安約 48 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

     1

 ――その第二十八番てがらです。
「一ツ、三月十二日。チクショウメ、ふざけたまねをしやがる。女ノ女郎めが、不忍弁天サマ裏ニテ、お参リノ途中、腰ニ結ンデおったる、シゴキを盗み取られたとなり。くやしいが、ベッピンなり。昼間のことなれば、やいの、やいのと、呼ンダレド、呼ンダレド、だれも助けに来ねえとなり。いと怪し」
「一ツ、三月十三日。雨降ッテ、だんなのキゲンワロシ。
 シゴキどろぼう、また出りゃがった。両国河岸にて、見せ物小屋の絵看板を、見とれておったれば、スルスルと腰から盗みとられたとなり。このほう、三割方、キリョウおちたるうえに、男が好きそうな下町っ子なり。雨なれば、呼ベド叫ベド人は来ズ、悲しやくせ者逃がしたり。と女の子が申し候」
「一ツ、三月十五日。だいぶ春めきて、四方の景色いとよろし。
 だんなが、食いていとのことなれば木ノ芽田楽コセエタリ。だんなが十九本。おらが三本、あとにてないしょに十六本、それはさておき、またまたチクショウメ、シゴキ盗人出やがったり。番町、旗本、大沢八郎右衛門方、奥勤メ腰元、地蔵まゆにて目千両とのことなり。お使いにて出先よりけえりの途中、牛込ご門わき、濠ばたにてギュッとうしろよりくせ者だきしめ、腰のあたりをポテポテとなでたとみるまに、スルスルと、ハヤ盗まれたり、若き女の腰ばかりをねらうとは、憎さも憎し。くやしくて銭湯へ行くのも忘れたり」
「一ツ、三月十六日。
 春が来て、ヒトリ寝ルノハイヤナレド、花が咲くゆえがまんできけり」
「おっといけねえ、いけねえ。うっかりと声も出して読めねえや。こりゃおらがゆうべないしょによんだ歌なんだからな。こんなものをだんなに聞かれたひにゃ、手もなく笑われらあ。――はてな。まだあったと思ったが、もうねえのかな」
「ウフフ……」
「え! 起きていたんですかい! しゃくにさわるね。寝てたと思っていたら目があいていたんですかい!」
 声をたてて読んでいたのはもちろん伝六。しかも、読んでいたのは笑わせることに、『ふところ日記八丁堀伝六』と表紙にものものしい断わり書きの見えるとらの巻きなのですから、すさまじいのです。
「ウフフ。今のは歌かい」
「いらんお世話ですよ」
 春行燈の向こうからこちらへ背を向けて、うつらうつらとまどろんでいたと思ったればこそ、つい心を許して口ざみしさのあまりに読むともなく読みあげていたのを、意外にもすっかり名人に聞かれてしまったので、恥ずかしさと腹だたしさに伝六は中っ腹でした。
「人の悪いにもほどがあらあ。ないしょごとってえものがあるんだ。人間にはだれだって他人に聞かせてならねえないしょごとってえものがあるんだからね。起きていたなら起きていたと、背中に張り紙でもしておきゃいいんですよ」
「おこるな、おこるな。感心しているんじゃねえかよ。おまえが敷島の道に心得があるたア、見か…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko