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盗聴者
とうちょうしゃ |
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作品ID | 58701 |
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原題 | THE LISTENER |
著者 | ブラックウッド アルジャーノン Ⓦ |
翻訳者 | The Creative CAT Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | The Creative CAT |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2018-02-22 / 2019-11-22 |
長さの目安 | 約 51 ページ(500字/頁で計算) |
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九月四日――ロンドン中を歩き回った末、なんとか年収――百二十ポンド――に見合う下宿を発見した。実のところ水道類のない二部屋で、古く崩壊寸前の建物の中だ。だがP――プレイスから石を投げれば届く距離で、極めて上品な街にある。下宿代は年に二十五ポンド。ほんの偶然からこの下宿を見つけたのは、もう駄目かと思い始めた矢先だった。偶然は単なる偶然であり詳述するに及ばない。賃貸契約は一年だったが、喜んでサインした。家具はハ――シャーの実家に随分長く置き去りにしてあるのを持ってくるつもりで、部屋によく合うだろう。
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十月一日――私は今、ロンドン中心街に二部屋を持ちそこに住んでいる。時折一、二本の原稿を持ち込んでいる雑誌社からも遠くない。建物はcul-de-sacの奥にある。整った石畳の路地は清潔で、大学か役所かといった感じの落ち着いた建物の裏手だ。ここには厩舎が一軒ある。我が家は「庵室」と名乗り威儀を正しているのだが、実体に比べ名があまりに勝り、自大した結果――真っ二つに割れて落ちそうな気がする。実に古い。居間の床は谷あり丘あり、といった次第で、ドアの天辺が天井から離れていることときたら常態からの名誉ある逸脱を示している。二人は仲違いしているに違いない――この五十年間――そしてなお互いを遠ざけているのだ。
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十月二日――女将は痩せた老婆で、埃っぽい皺々な顔をしている。無口だ。数語を口にするのもかったるいらしい。肺の半分に埃が詰まっているのだろう。どこにでもあるこの厄介物を女将は可能な限り私の部屋から取り除いてくれる。また、力持ちの若い女中に命じて、朝食を運び上げ暖炉に火を灯してくれる。前にも書いたが女将は無愛想だ。こちらから陽気に話しかけても、今は貴方がただ一人の店子ですとぶっきらぼうに答えるだけだった。私の部屋にはここ何年か下宿人がいなかった。上の階には住人が何人かいたことがあるが、引っ越してしまった。
話をする時、女将はこちらをまっすぐ見ようとせず、チョッキの真ん中のボタンから目を動かさなかった。ボタンをかけ違っているのか、あるいは種類が違うのかと心配になるほどだ。
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十月八日――一週間の支払いがまとまった。これまでの所安く済んでいる。ミルクと砂糖が七ペンス、パンが六ペンス、バターが八ペンス、マーマレードが六ペンス、卵が一シリング八ペンス、洗濯女に二シリング九ペンス、油が六ペンス、世話代に五シリング、〆て十二シリング二ペンス。
女将には息子がいて、「バシュの乗務ヒン」なのだという。時々女将のところにやってくる。酒を飲むようだ。というのも昼であろうと夜であろうと御構いなしに大声を出し、階下の調度品を引っ掻き回しているから。
午前中はずっと部屋の中に座って執筆だ――雑…