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四風の街
よもかぜのまち
作品ID58702
原題THE STREET OF FOUR WINDS
著者チェンバース ロバート・W
翻訳者The Creative CAT
文字遣い新字新仮名
入力者The Creative CAT
校正者
公開 / 更新2018-02-22 / 2019-11-22
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

汝が眼を半ば閉じ、
腕を胸の上に組めよ、
夢見る汝の心より永久に、
なべての思いを追いやれよ。

我は自然を歌う、
夕の星を、朝の涙を、
はるけき水平線に沈む陽を、
未来の存在の心臓に語るかの空を。



 動物は敷居の上で訝しげに立ち止まると、いざという時はいつでも逃げ出せるように警戒していた。セヴァーンはパレットを置き、手を差し伸べてそれを招いた。牝猫は不動のまま、黄色の両目をセヴァーンの上に向けていた。
「ニャンコ、」と彼は低く心地よい声で呼びかけた。「おはいり。」
 細い尻尾が心を決めかねるように震えた。
「おいでよ。」と再び彼。
 猫は明らかにその声にほっとした様子で、手足をゆっくり畳み、両目で彼を捉えたまま、痩せこけたお腹の周りに尻尾を丸めた。
 にっこりして彼はイーゼルから起き上がった。猫は声もなく彼に目を向け、歩み寄り自分の上にかがみ込む姿を見ても身じろぎせず、彼の手が頭を撫でるのを目で追っていた。猫はくたびれた声でニャオと鳴いた。
 動物と話をするのが、ずっと前からのセヴァーンの習慣だった。多分、ひとりぼっちで暮らしていたからだろう。さて、彼はこう言った「どうしたんだい? ニャンコ。」
 猫はおずおずとした目で彼の目を探った。
「わかってるって、」彼は優しく言った「丸ごと平らげちゃっていいんだよ。」
 彼は粛々と動き、主人たる義務を果たそうとした。皿を洗うと、そこに窓框の瓶から残ったミルクをなみなみと注ぎ、跪くと小さなパンをちぎって手の平に載せた。
 動物は立ち上がって皿の方ににじり寄った。
 彼はパレットナイフの柄を使ってミルクとパンの小切れをかき混ぜると、猫がその中に鼻を入れられるように身を引いた。彼は無言で猫を見つめた。縁についた食べ物を猫が少しずつかじる度に、皿はタイルの床の上でカラカラと音を立て、とうとうパンはなくなってしまった。猫は紫色の舌を出して、ミルクの最後の一滴が消えるまで、皿が隅々まで磨かれた大理石のようになるまで舐め回した。猫は腰を下ろして、涼しい顔で彼に背を向け、毛繕いを始めた。
「その調子だよ、」セヴァーンは興味深げに言った「おめかししないとね。」
 猫は片耳を傾けただけで、振り向くことも、手入れを休むこともなかった。徐々に毛が綺麗になってくると、セヴァーンは、それが元は白猫だったことに気づいた。病気なのか喧嘩のせいか、あちらこちらに点々と抜け毛があり、尻尾は骨張って、背中はごつごつしていた。だが、これでもかと毛を舐めまわした結果、生来の魅力がはっきりしてきて、彼は手入れが終わるまで口を出さずに待っていた。とうとう猫が両目を閉じ、香箱に座ると、とても優しく言葉を繋いだ:「ニャンコ、どんな目に遭ったのか教えてよ。」
 その声に、猫はいきなりガラガラ声を出し始めた。ごろごろ言おうとしているのである。彼が屈んで頬をなで…

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