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心のゆくところ(一幕)
こころのゆくところ(ひとまく)
作品ID58705
原題THE LAND OF HEART'S DESIRE
著者イエイツ ウィリアム・バトラー
翻訳者松村 みね子
文字遣い新字新仮名
底本 「近代劇全集 第廿五卷愛蘭土篇」 第一書房
1927(昭和2)年11月10日
入力者館野浩美
校正者岡村和彦
公開 / 更新2019-02-10 / 2019-01-30
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]




マアチン・ブルイン  父
ブリヂット・ブルイン 母
ショオン・ブルイン  マアチンの子
メリイ・ブルイン   ショオンの妻
神父ハアト
フェヤリイの子供

遠いむかし
アイルランド、スリゴの地、キルマックオエンの領内にあったこと


[#改ページ]



部屋の右の方に深い凹間がある、凹間の真中に炉。凹間には腰掛とテイブルあり、壁に十字架像がある。炉の火の光で凹間の中が明るい。左手に戸口、戸があいている、その左に腰掛。戸口から森が見える。よるではあるが、月かあるいは夕日の消え残ったうすあかりか樹々のあいだにほのかなひかりがあって、見る人の眼をとおくのぼんやりした不思議な世界にみちびく。マアチンとショオンとブリヂットの三人が凹間のテイブルの側や火の側に腰かけている。古いむかしの服装。その側に神父ハアト腰かけている。僧服をつけて。テイブルの上に食物と酒。
 若き妻メリイ戸のそばに立って本を読んでいる。彼女が本から眼をあげて見れば戸口から森の中まで見えるのである。
[#改ページ]
ブリヂット
夕食の支度に鍋を洗えといいますと
屋根うらからあんな古い本を出して来ました
それから読みつづけております。
神父様、彼女をほかの人たちのように働かせましたら
どんなに苦しがったり泣いたりいたしましょう
わたしのように夜明から起きて縫いものをしたり掃除をしたり
また、あなたのように尊いお器と聖いパンをお持ちになって
あらい夜も馬でお歩きになる、そのようにしろといいましたら
ショオン
お母さん、あなたはやかまし過ぎる
ブリヂット
お前は夫婦だから
彼女の気に逆うまいと思って、彼女の味方ばかりする
マアチン (神父ハアトに[#「ハアトに」は底本では「ハトアに」]向って)
若いものが若い者の味方をするのは当前で
彼女は時々わたしの家内と喧嘩もやります
今はあのとおり古い本に夢中になっていますが
しかしあまりお叱り下さるな、彼女もいまに
木に生えたやぶだまのように静かになりましょう
新婚の夜の月が夜明になりやがて消えて
それを十遍もくり返しているうちには
ハアト
彼等の心は荒い
鳥どもの心と同じように、子供が生れるまでは
ブリヂット
薬缶の湯を入れるでもなし、牛の乳をしぼるではなし
食事の支度の切れをかけたりナイフを並べることもしません
ショオン
お母さん、もし――
マアチン
これには半分しか酒がないよ、ショオン、
行って家にある一ばん良い酒の壜を持って来てくれ
ハアト
いままで彼女が本を読んでるのを見たことはなかったが
何の本だろう
マアチン (ショオンに)
何を待っているのだ
口をあけるとき壜を振ってはいけない
大切な酒だ、気をつけておくれ(ショオン行く)
(神父に向って)
オクリスの岬でスペイン人が難船したことがありました
わたしの若い時のことで…

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