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![]() カスリイン・ニ・フウリハン(ひとまく) |
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作品ID | 58707 |
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原題 | CATHLEEN NI HOOLIHAN |
著者 | イエイツ ウィリアム・バトラー Ⓦ |
翻訳者 | 松村 みね子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「近代劇全集 第廿五卷愛蘭土篇」 第一書房 1927(昭和2)年11月10日 |
入力者 | 館野浩美 |
校正者 | 岡村和彦 |
公開 / 更新 | 2019-03-19 / 2019-02-22 |
長さの目安 | 約 17 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
人
ピイタア・ギレイン
マイケル・ギレイン ピイタアの長男、近いうちに結婚しようとしている
パトリック・ギレイン マイケルの弟、十二歳の少年
ブリヂット・ギレイン ピイタアの妻
デリヤ・ケエル マイケルと婚約の女
まずしい老女
近所の人たち
[#改ページ]
一七九八年、キララに近い農家の内部、ブリヂットは卓に近く立って包をほどきかけている。
ピイタアは炉のわきに腰かけ、パトリック向う側に腰かけている。
ピイタア あの声は何だろう?
パトリック 俺にはなんにも聞えない。(聴く)ああ、きこえる。何か喝采しているようだ。(立って窓にゆき外を見る)何を喝采してるんだろう。だれも見えやしない。
ピイタア 投げっくらしているんじゃないか。
パトリック 今日は投げっくらなんかありゃしない。町の方で喝采しているらしい。
ブリヂット 若い衆たちが何かスポーツをやってるのだろう。ピイタア、こっちへ来てマイケルの婚礼の着物を見て下さい。
ピイタア (自分の椅子を卓の方にずらせて)どうも、たいした着物だ。
ブリヂット あなたがわたしと一着に[#「一着に」はママ]なった時にはこんな着物は持っていませんでしたね、日曜日だってほかの日と同じようにコートも着られなかった。
ピイタア それは本当だ。われわれの子供が婚礼する時こんな着物が着られようとは思いもしなかった。子供の女房をこんなちゃあんとした家に連れて来られようと思いもしなかった。
パトリック (まだ窓のところに立って)往来を年寄の女が歩いて来るよ。ここの家へ来るんだろうか?
ブリヂット だれか近所の人がマイケルの婚礼のことを聞きに来たんだろう。だれだか、お前に分るかい?
パトリック よその土地の人らしい、この家へ来るんじゃない。坂のところで曲がってムルチインと息子たちが羊の毛を切ってる方へ行った(ブリヂットの方へ向いて)こないだの晩四つ角のウイニイが言ってた事を覚えているかい。戦争か何かわるい事が起る前に不思議な女が国じゅう歩きまわるという話を?
ブリヂット ウイニイの話なんぞどうでもいいよ、それより、兄さんに戸を開けておやり。いま帰って来たらしい。
ピイタア デリヤの持参金を無事に持って来たろうな、おれがせっかく取り極めた約束を、向うでまた変えられちゃ困るよ、ずいぶん骨を折って極めた約束だ。
(パトリック戸を開ける、マイケル入る)
ブリヂット 何で手間がとれたのマイケル? さっきからみんなで待っていたんだよ。
マイケル 神父さんとこへ寄って明日結婚さして貰えるように頼んで来た。
ブリヂット 何とかおっしゃったかい?
マイケル 神父さんは非常に良い縁だって言ってた、自分の教区のどの二人を結婚させるよりも俺とデリヤ・ケエルを結婚させるのを喜んで…