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五階の窓
ごかいのまど
副題05 合作の五
05 がっさくのご
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「五階の窓」 春陽文庫、春陽堂書店
1993(平成5)年10月25日
初出「新青年」博文館、1926(大正15)年9月
入力者雪森
校正者富田晶子
公開 / 更新2019-05-26 / 2019-04-26
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

17

「おやっ!」
 と叫んだ長谷川の声がひどく間が抜けて大きかったので、山本は危なくコーヒー茶碗をテーブルの上へ落とそうとした。
「おい、いったいどうしたんだい、大声が自慢にゃあならないぜ」
「シェーネス・フロイラインが通るのだよ」
 長谷川は窓へ飛んでいった。
「どれ」
 と言うと、山本も長谷川の肩越しに窓外を見た。
 雪が止んだので人通りがある。
 一人の娘が歩いていく。深くうつむいているとみえ、ショールを抜いて頸脚が、少し寒そうに白々と見える。それが瀬川艶子であった。やがて人影に隠れてしまった。
「わが少女去りにけりか」
 長谷川はテーブルへ帰ってきた。
「それだけの詠嘆でいいのかい」
 椅子へ腰かけた山本は、ちょっと皮肉に言ったものである。
「探偵小説家としてはいけないさ。だが、ぼくは場合によっては探偵小説家なんか廃業したっていいよ、彼女さえぼくを愛してくれたらね」
「不心得だね、食えないぜ」
「なに、そうしたら新聞記者になる」
「ぼくのお株を奪うのだね」
「あっ、なるほど、そういうことになるか」
「探偵小説家でいたまえよ」
「探偵小説家でいる以上は、詠嘆ばかりしてはいられないね。よろしい、ひとつ研究してみよう。彼女は動乱の渦中にいる、煩悶していなければならないはずだ。いや、今朝会った様子では、事実ひどく煩悶していたよ。それなのにどうしたんだろう、暢気らしく午後二時になると散歩している」
「だめだなあ、そういう見方は」
 山本は大袈裟な身振りをした。
「あれだけ首をかしげていれば、暢気らしいとは言えないよ。そうして、ぼくの観察によれば、散歩などとは思われないね。目的があって歩いていくのさ」
「いったい、どんな目的だろう?」
「きみ、きみ、そいつが知りたいのかい。それは非常に簡単にできる。艶子さんに訊けばいいじゃあないか」
「だって、そいつは不作法だよ」
「ではもう一つ、尾行するほうがいい」
「紳士的でないよ、ごめんこうむろう」
「どうもね、きみが紳士にしては洋服の型が少し古い」
「日本じゅうの雑誌社へ怒鳴り込んでくれ、もう少し原稿料を上げるようにって。こう貧乏じゃあ流行は追えない」
 とうとう笑いが爆発してしまった。
 どんなに笑い声が大きかったか? 『すみれ軒』のウエートレスたちがいっせいに二人を見たことによって、充分想像されようではないか。
 そこで二人は別れることにした。
 一人になった長谷川は、やはり探偵小説家として必要な解剖と推理の中へ、没頭しながら歩いていった。
(時間と傷、時間と傷、問題は二つに局限されている。四時二十分から三十分の間に、西村は息を引き取っている。艶子が一撃を加えたのは四時五分ごろと認めてよい。艶子の一撃でできた傷が西村の肩の打撲傷だ。が、こいつでは死にっこはない、少女の腕力というものはその色目より微力なもので、まし…

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