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私生児を意味する方言
しせいじをいみするほうげん
作品ID58762
著者柳田 国男
文字遣い旧字旧仮名
底本 「定本柳田國男集 第十五巻」 筑摩書房
1963(昭和38)年6月25日
初出「民族 二卷四號」1927(昭和2)年5月
入力者フクポー
校正者津村田悟
公開 / 更新2022-11-25 / 2022-10-31
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 民法に所謂私生子、東京などで普通にテテナシゴといふものを、地方で何と呼んで居るかといふことを考へて見るのは、婚姻制度研究の一方法として價値がある。今までに知れて居る二三の實例を掲げて、出來ることならば此上の蒐集を勸めたいと思ふ。出處は一々に示さなかつたが、何れも其地の方言集又は郡誌の如き、近年の刊行物から拾ひ出したものである。もし反對の事實があるならば注意を願ひたい。
ホンマチゴ             羽後仙北郡
シンガイゴ             越中の一部
フリタゴ              「出雲方言」
 ホンマチゴもシンガイも又フリタも略[#挿絵]同じ意味で、内證ごと若くは一個人の私事といふことである。通例はホマチといへば隱してする貯金であるが、必ずしも戸主に知らしめないといふ意味は無いと見えて、富山縣では又シンガイ田と謂つて下男の作る田もあつた。情夫をシンガイ男といふ例もある。出雲では又「ヤマゴメ」とも謂ふさうである。是はよく分つて居る。
ヨクナシゴ             越後西蒲原郡
 ヨクナシといふ語は北會津などにもあつて、婦人の色々の男と附合ふ者を意味して居る。但し何故にそれをヨクナシと謂ふかは、使つて居る人たちに問うて見ぬと判然せぬ。次にどうしても解し得ぬのは、
ダゴノコ              能登珠洲鳳至
ネコダ               飛騨の一部
ツボッコ              信州下伊那
ツボッコ              遠江磐田郡
などである。ネコダは物を背負ふ場合に着る藁製のせなかあての名で、それと何かの關係があるらしい。ツボは事によると外庭のことであるかも知れぬ。陸中遠野附近で下女に生ませた子をマヤゴ即ち厩舍兒と呼んで居る。許されなければ家には入れぬからの名であらうと思ふ。
ヒロイッコ、ヒジョッコ       信州下水内郡
ミシケゴ、ヨベコ          鹿兒島縣一部
 ミシケルとは九州廣い區域に於て、見付けるに該當する方言だから、即ち北信濃の拾ひ兒と同じである。勞力が父の家に必要である場合には、認知は之を發見と名づけてもよろしい。親子の名乘りといふことが、大昔以來の物語の愉快な一場面となつて居たのは、圖らずして一人の味方又は部下を増加するといふ幸福からであつたと思ふ。ヨベコといふのも喚び寄せることであり、ヒジョッコはヒロヒ子の轉訛であらう。最初に、
テンドコ              鹿兒島縣内
は、天道兒即ち自然兒で、よく/\父親を知り得ない場合をさしたものと思ふ。古風な山村には今でも天道兒の出來るやうな機會が、あるといふ話も傳はつて居る。
 沖繩本島の國頭で、ヤグサミグヮーと謂ふのは、前に擧げたヤマメ兒と同じである。
 斯んな話も消滅してしまはぬうちに、採録だけはして置く必要がある。それで互ひに通用…

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