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管見芭蕉翁
かんけんばしょうおう
作品ID58795
著者佐藤 春夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 佐藤春夫全集 第26巻」 臨川書店
2000(平成12)年9月10日
初出「芭蕉の生涯展 パンフレット」1964(昭和39)年1月
入力者えんどう豆
校正者津村田悟
公開 / 更新2020-10-12 / 2020-09-30
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 すぐれた詩人といふものを見るに、同時に鋭い批評家であり、俊敏なジャーナリスト(時務を知る人)を兼ねてゐる。これを詩的才能の三位一体とでも言はうか。シャール・ボードレール、エドガァ・ポオなどの如くにである。いや古今東西の傑出した詩人がみなそれかも知れない。
 わが国でも古は紀貫之、近くは先師与謝野寛や石川啄木などもそれであらう。この同じやうな頭脳にも多少組み合せの相違や質の高下はもとよりある。この種の詩人のうちわが国での最高最大のものを、わたくしは日本詩歌中興の祖たるわれらの芭蕉に見る。
 彼はその鋭い批評眼によつて、古来のわが文芸から、その伝統とすべきものと、摂取すべき海外(といふのはこの際むろん中国)の文学とを択び取つた。さうしてジャーナリスト芭蕉は時の動向と要求とに鑑みて蕉風を樹立したのである。彼一個のなかに詩人、批評家、ジャーナリストの三人がゐたと見るのは、さもなければ彼の文学的事業の成立は理解しにくいからである。
 芥川龍之介は一日、わたくしに囁いて曰く
「芭蕉といふおやぢは会つてみたら案外アクの強い藤村みたいないやな男(彼は大の藤村ぎらひであつたから)であつたかも知れないよ」
 その時わたくしは何と答へたやらは忘れたが、彼の言ふところがわからないでもない気がした。彼もまたかの翁のなかに鋭い批評家や隼のやうな眼を持つたジャーナリストを見つけてあんなことを言つたのかも知れない。
 それでも彼の言葉は偶像破壊的な言ひ方であつたが、わたくしには毫も偶像破壊の意思はない。芭蕉に血の通つた人間を見ながら、そのなかにこの三位一体の才能の最も良質で最も調和を得たものを見る者である。つまり要領のいい稀代の大才人と言つてもよいのかも知れない。なるほど藤村に似たところもある。



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