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飢餓の中から
きがのなかから
作品ID58799
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
初出「プロレタリア文学 第一巻第五号」日本プロレタリア作家同盟出版部、1932(昭和7)年4月25日
入力者津村田悟
校正者夏生ぐみ
公開 / 更新2018-12-09 / 2021-05-28
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


腹は凹んで皮ばかりのようだ
口はほせからツバも出ない
目はかすんでものが見えぬ

三分作なのに地主はおしかけて来た
来年の年貢をよこせと
そして 手をあわせて拝むわたしらを尻目にかけ
一粒のこらず かっさらって行った

毎日毎晩
わたしらは夢中で外へ這い出た
キョロキョロになって吹雪の中をかけまわった
木の根をむしった
草の芽をかんだ
見つけ次第
犬猫を殺し奪い合って食った
腹がキリキリした
ゲイゲイ吐いた

いまは 一匹の犬猫も見えぬ
一つの木ノ芽もない

娘らは小娘のからだで女郎に売られて行った
その金は借金取がおさえた

息子らは満州へ×いやられた
たくさんの息子らと一しょに箱づめにされ
そして停車場へかけつけたわたしらを
ホームへも入れなかった
さし出す息子らのかおを押しこめ
汽車の窓を閉じた
わたしらは地面に頭をおしつけて泣きくずれた
じたばた踏んだ
おお もはや
村中には
息子も娘も犬猫も木ノ芽もない
そして
腹がひっついてしまい目が見えぬ

だが
このままでいると思うか
なるほどヒョウも降った
雨も降り過ぎた
けれども自作農は七分作だぞ

わたしは肥料が買えなかったのだ
去年もおととしも
このままでは
来年もさらいねんもズッとキキンだぞ
おお わたしらの胸は煮えかえる
わたしらを飢えにさらし
戦争を企て………
そいつらはなにか!
満蒙事変とは何か!
わたしらはスッパ抜いたぞ
わたしらは起ち上がる
起ち上がり
奴らを×しかえす
しぼりかえす

わたしらは 心をあわせ
打って一丸となり
奴らめがけて
やり抜いて見せるぞ

ひもじい腹
かすむ目
こごえる寒さ
その中で
わたしの闘志はたぎる



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