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途中で
とちゅうで
作品ID58801
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
初出「婦人戦旗 第一巻第二号」戦旗社、1931(昭和6)年8月1日
入力者津村田悟
校正者夏生ぐみ
公開 / 更新2019-01-24 / 2018-12-24
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


わたしは途中で一人の女とすれちがった
女のかおは白粉と紅で白く赤く美しかった
背が高くふっくら円かった
年は二十三四
そして藤色チリメンの長袖
厚いフェルト草履の大股でトットッと歩いて行った
それは大変に自慢そうで
からだ全体が得意で一ぱいのようだった
わたしは洗いざらしの浴衣を着て
青じけた顔をうつむけて通りすぎた

わたしは顔をうつむけて通りすぎた
そうしてわたしは振りかえった

振りかえった時
わたしの胸はわくわくとこみ上げた
いくらでも威張りなさい
いくらでもおけつを振りなさい
あなたがそうしてじゃらじゃらしている間に
わたしたちが何をしようとしているか
何処に向かって着々としているか
高慢ちきな娘よ
この陽に焼けたゆがんだ顔で
みすぼらしいわたしたちが何をしでかすか
何をしでかすか

振りかえった時
わたしの胸はわくわくとこみ上げた
わたしの胸は色あせた浴衣の中で焼けた



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