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母の叫び
ははのさけび
作品ID58802
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
初出「赤い銃火〔詩・パンフレット第一輯〕」日本プロレタリア作家同盟出版部、1932(昭和7)年4月20日
入力者津村田悟
校正者夏生ぐみ
公開 / 更新2018-08-15 / 2021-05-28
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


行ってしまった
もう煙も見えない
息子を乗せた汽車は行ってしまった
剣を抜いて待ちかまえている
耳や 手足の指がくさって落ちるという
そんな寒い
戦場の×煙の中へ
息子の汽車は走って行った

生きて帰るようなことはあるまい
汽車の窓のあの泣き笑いがお
あれがあの子の見おさめなのか

親一人子一人の暮らしで
あの子は毎晩
わたしの夜具の裾をたたいてくれた
いつもやさしい笑顔で働いてくれた
ああ わたしを大事にしてくれたあの子
わたしのひとり子

物持ちの子供らは
きりきず一つ
鼻風邪一つ引いても
それ医者それ薬と大さわぎして
ふかふかとまるまると育って行ったけれど
わたしらの子供は生みっぱなし
田ノ畔を引っぱりまわすやら
ぼろくずにおしこめたりして
ひもじ泣きに死んで行った
風邪ヒキやハラをこわし 三人の子供が死んでしまった

その中で あの子だけ生きのこってくれて
あんな大きな若者に成人してくれたのだ
いまになって
戦さで死なせねばならないなんて

剣が突きさし
大砲がまい込む
おお恐ろしや
あのしゃんとした胸を
米一俵やすやすとかついだあの大きな肩
あのような二十三のからだを

おお そして
それが万歳だと
おお恐ろしや
敵も味方も命に変わりはなかろうに
旗振り上げて万歳だと
金持ちののらくら息子は座らせておいて
わたしらの子供ばかり箱づめにし
泣きすがる親きょうだいを蹴ちらして
お上の者どもは、わたしらの×されるのがうれしいのだ
平常は平常でしぼり抜き飢え死にさせ

どこまでわたしらの命をふみにじるのだ
わたしらとて命に変わりはないぞ
真っ平だ 真っ平だ
何とチョウバツしようと
命をかけて絶対×××
ああ戦場からいま直ぐに
息子とりもどしたいとりもどしたい



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