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父八雲を語る
ちちやくもをかたる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「ある英語教師の思い出 ――小泉八雲の次男・稲垣巌の生涯」 恒文社
1992(平成4)年11月20日
初出「父八雲を語る」ラジオ放送、1934(昭和9)年11月15日
入力者林田清明
校正者フクポー
公開 / 更新2018-09-26 / 2018-09-27
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 わたくしはヘルン小泉八雲の次男であります。最初にお断り申し上げて置きますが、今宵の私のお話は「父」としてのヘルンを語るのでなく、文学者としてのヘルンを語るのが主旨ですから、「父」とは申さず「ヘルン」と申すつもりです。従って「母」のことを「ヘルン夫人」と呼びます。少々キザに聞えるかも知れませんが、特別の場合を除いては、「父」とか「母」とかは申しませんから御承知置き下さい。
 ヘルンの作品の中には奇談怪談を取扱った物語や研究が随分沢山見出されます。「怪談」「霊の日本」「支那怪談」「異文学拾遺」など、著書の題名が既に内容を語ってゐるものはいふまでもなく、其他「骨董」でも「異国情趣」でも「きまぐれ」でも「天の河縁起」でも、ヘルンの殆ど全作品を一貫してゐる特質は、此の「怪奇」といふことであります。怪しい、不思議な、異常な世界、これがヘルンの目指し求めた「芸術の本質」なのであります。
 過敏な神経と、強烈な想像力を享けて生れた彼が、其の少年時代を、精神的に淋しい環境に育てられ、青年時代には物質的にドン底生活を強ゐられるに到って、ますます現実生活の難渋から逃れて、空想の国に慰安を求めやうとし、次第に霊的の方面、怪奇の世界に対して特別の興味を覚えるやうになったといふのは、全く自然だらうと思はれます。
 さて此の特質を極度に生かしたもの、完成させたものが、晩年の作――死ぬる一年前に出版された「怪談」でありまして、之には「不思議な事の研究と物語」といふ「こみだし」が附けてあるやうに、日本のあらゆる時代の、あらゆる方面の、超自然的な、不思議な話で全篇が満ちて居ります。平家の亡霊の前で秘曲を弾ずる琵琶法師の話を始めとしまして、死人を食べる餓鬼、月夜に飛び廻るろくろ首などといふグロ味たっぷりなものから、人間の魂が蝶々になる話や、柳の魂が人間になるなどゝいふ不思議なロマンス。其他雪の精が人間男の妻になる話。切られた生首が最後の念力で庭の飛石に噛付く話など、全部十七篇の物語の中にヘルンの怪談趣味は遺憾なく盛り尽された感があります。
 これ等の怪談に表はれてゐる民間の信仰や俗説に対してヘルンはどう考へてゐるか。単なる猟奇的な、異国情緒的なものに心を惹かれたのではなく、いつも特別に同情のある解釈精神を以て対してゐます。ヘルンの言葉を借りますれば、「凡て迷信にせよ何にせよ、礼拝信仰といふ一般思想には、愚かな、をかしい分子などは少しもなく、何れも凡て人類が絶対無限の方向へ進まうとする真面目な、讃むべき向上心を表はしたもの」なのであります。それでヘルンはむしろ敬虔な態度で之を取扱ひ、その背後にある美しい思想や不思議な精神を眺めてゐるのです。
 さてかういふ多種多方面の物語の、材料はどこから出たか、何を通じてヘルンに供給され、ヘルンのペンで改作されたかと申しますと、これは全部ヘルン夫人の口伝へによ…

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