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ナイチンゲール
ナイチンゲール
著者
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年2月10日
入力者チエコ
校正者木下聡
公開 / 更新2019-02-23 / 2019-01-29
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 中国という国では、みなさんもごぞんじのことと思いますが、皇帝は中国人です。それから、おそばにつかえている人たちも、みんな中国人です。さて、これからするお話は、もう今からずっとむかしにあったことですけれど、それだけに、かえって今お話しておくほうがいいと思うのです。なぜって、そうでもしておかなければ、忘れられてしまいますからね。
 皇帝の住んでいる御殿は、世界でいちばんりっぱな御殿でした。なにもかもが、りっぱな瀬戸物で作られていました。それには、ずいぶんお金がかかっていました。ただ、とってもこわれやすいので、うっかり、さわりでもすれば、たいへんです。ですから、みんなは、よく気をつけなければなりません。
 お庭には、世にもめずらしい花が咲きみだれていました。なかでも、いちばん美しい花には、銀の鈴がゆわえつけてありました。その鈴は、たいそうよい音をたてて、リンリンと鳴りましたので、そのそばを通るときには、だれでも、つい、花のほうに気をとられるほどでした。
 ほんとうに、皇帝のお庭にあるものは、なにもかもが、さまざまの工夫をこらしてありました。おまけに、そのお庭の広いことといったら、おどろいてしまいます。お庭の手入れをする植木屋でさえも、いったい、どこがお庭のおわりなのか、見当もつかないくらいだったのです。そのお庭をどんどん歩いて行くと、このうえもなく美しい森に出ました。そこには、高い木々がしげっていて、深い湖がいくつもありました。森は、青々とした深い湖の岸までつづいていて、木々の枝は水の上までひろがっていました。大きな船でも、帆をはったまま、その下を通ることができました。
 さて、その枝に、一羽のナイチンゲールが住んでいました。その歌声は、ほんとうにすばらしいものでした。ですから、仕事にいそがしい、貧しい漁師でさえも、夜、網をうちにでて、ナイチンゲールの歌声を耳にすると、思わず仕事の手をやすめてはじっと聞きいったものでした。
「ああ、なんというきれいな声だ!」と、漁師は言いました。けれども、また仕事にかからねばなりません。それで、鳥のことは、それなり忘れてしまいました。けれども、またつぎの晩、漁にでかけて、ナイチンゲールの歌を聞くと、漁師はまた同じように言うのでした。
「ああ、まったく、なんというきれいな声だ!」
 世界じゅうの国々から、旅行者が皇帝の都にやってきました。みんなは、御殿とお庭を見ると、そのすばらしさに、ただただおどろきました。ところが、ナイチンゲールの歌声を聞くと、
「ああ、これこそ、いちばんだ」と、口々に言いました。
 旅行者たちは、自分の国へ帰ると、さっそく、そのことを人に話しました。学者たちは、皇帝の都と、御殿と、お庭とについて、幾冊も幾冊も、本を書きました。もちろん、ナイチンゲールのことを、忘れるようなことはありません。それどころか、ナイチ…

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