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影
かげ |
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作品ID | 58861 |
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原題 | SKYGGEN |
著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「新訳 アンデルセン童話集 第二巻」 同和春秋社 1955(昭和30)年7月15日 |
入力者 | 大久保ゆう |
校正者 | 小岩聖子 |
公開 / 更新 | 2021-01-12 / 2020-12-27 |
長さの目安 | 約 30 ページ(500字/頁で計算) |
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[#挿絵]
あつい国ぐにでは、お日さまが、やきつくように強く照りつけます。そこではたれでも、マホガニ色に、赤黒くやけます。どうして、そのなかでも、ごくあつい国では、ほんものの黒んぼ色にやけてしまうのです。
ところが、こんど、寒い北の国から、ひとりの学者が、そういうあつい国へ、そんなつもりではなく出てきました。この人は国にいるじぶんの気で、こちらにきても、ついそこらをぶらつくことができるつもりでいました。でもさっそく、その考えはかえて、この人も、この国のせけんなみに、やはりじっとしていなければなりませんでした。どこの家も、それは、窓も戸も、まる一日しめきりで、中にいる人は、ねているのか、どこかよそへ出ているとしかおもえないようでした。この人の下宿している高いたてもののつづきのせまい通りは、おまけに朝から晩まで、日がかんかんてりつけるようなぐあいにできていて、これはまったくたまらないことでした。
さて、さむい国からきた学者は、年は若いし、りこうな人でしたが、でもまる一日、にえたぎっているおかまの中にすわっているようで、これにはまったくよわりきって、げっそりやせてしまいました。その影までが、ちぢこまって、国にいたじぶんから見ると、ずっと小さくなりましたが、お日さまには、影までいじめつけられたのです。――で、やっと晩になって、お日さまが沈むと、人も影もはじめていきをふき返すようでした。さて、あかりがへやのなかにはいってくると、さっそく影はずんずんのびて、天井までつきぬけるほどたかくなります。それはまったく見ているとおもしろいようでした。影は元気をとりかえすつもりか、のびられるだけたかく、せいのびするように見えました。学者は、露台へ出ると、のびをひとつしました。きれいな大空の上に、星が出てきて、やっと生きかえったようにおもいました。町じゅうのバルコニにも――あつい国ぐにでは、窓ごとにバルコニがついているのですが、――みんなが新しい空気をすいに出てきました。
いくらマホガニ色にやけることにはなれても、すずむだけはすずまずにはいられません。すると上も下もにぎやかになってきました。まずくつやと仕立屋が、それから町じゅうの人が、下の往来に出てきました。それから、いすとテーブルがもち出されて、ろうそくが、それは千本という数ものろうそくがともされます。話をするものもあれば、うたうものもあり、ぶらぶらあるくものもあります。馬車が通ります。ろばがきます。チリンチリン、鈴をつけているのです。死人が讃美歌に送られておはかにはいります。不良どもは往来でとんぼをきります。お寺のかねがなりわたります。いやはや、どこもここも、大にぎやかなことでした。ただ、れいの外国から来た学者のすまいの、ちょうどまん前のたてものだけは、いたってしずかでしたが、やはり住んでいる人はあるようで、バルコニには…