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みにくいアヒルの子
みにくいアヒルのこ
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者矢崎 源九郎
文字遣い新字新仮名
底本 「マッチ売りの少女 (アンデルセン童話集Ⅲ)」 新潮文庫、新潮社
1967(昭和42)年12月10日
入力者チエコ
校正者木下聡
公開 / 更新2019-12-24 / 2019-11-24
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いなかは、ほんとうにすてきでした。夏のことです。コムギは黄色くみのっていますし、カラスムギは青々とのびて、緑の草地には、ほし草が高くつみ上げられていました。そこを、コウノトリが、長い赤い足で歩きまわっては、エジプト語でぺちゃくちゃと、おしゃべりをしていました。コウノトリは、おかあさんから、エジプト語をおそわっていたのでした。
 畑と草地のまわりには、大きな森がひろがっていて、その森のまんなかに、深い池がありました。ああ、いなかは、なんてすばらしいのでしょう! そこに、暖かなお日さまの光をあびて、一けんの古いお屋敷がありました。まわりを、深い掘割りにかこまれていて、へいから水ぎわまで、大きな大きなスカンポが、いっぱいしげっていました。スカンポは、とても高くのびていましたから、いちばん大きいスカンポの下では、小さな子供なら、まっすぐ立つこともできるくらいでした。そこは、まるで、森のおく深くみたいに、ぼうぼうとしていました。
 ここに、アヒルの巣がありました。巣の中には、一羽のおかあさんのアヒルがすわって、今ちょうど、卵をかえそうとしていました。けれども、かわいい子供は、なかなか生れてきませんし、それに、お友だちもめったに、あそびにきてくれないものですから、今では、もうすっかり、あきあきしていました。ほかのアヒルたちにしてみれば、わざわざ、このおかあさんのところへ上っていって、スカンポの下におとなしくすわって、おしゃべりなんかするよりも、掘割りの中を、かってに泳ぎまわっているほうが、おもしろかったのです。
 とうとう、卵が一つ、また一つと、つぎつぎに割れはじめました。ピー、ピー、と、鳴きながら、卵のきみが、むくむくと動き出して、かわいい頭をつき出しました。
「ガー、ガー。おいそぎ、おいそぎ」と、おかあさんアヒルは、言いました。すると、子供たちは、大いそぎで出てきて、緑の葉っぱの下から、四方八方を、きょろきょろ見まわしました。そのようすを見て、おかあさんは、みんなに見たいだけ見せてやりました。なぜって、緑の色は、目のためにいいですからね。
「世の中って、すごく大きいんだなあ!」と、子供たちは、口をそろえて言いました。もちろん、卵の中にいたときとは、まるでちがうのですから、こう言うのも、むりはありません。
「おまえたちは、これが、世の中のぜんぶだとでも思っているのかい?」と、おかあさんアヒルは言いました。「世の中っていうのはね、このお庭のむこうのはしをこえて、まだまだずうっと遠くの、牧師さんの畑のほうまで、ひろがっているんだよ。おかあさんだって、まだ行ったことがないくらいなのさ! ――ええと、これで、みんななんだね」
 こう言って、おかあさんアヒルは、立ちあがりました。
「おや、まだみんなじゃないわ。いちばん大きい卵が、まだのこっているね。この卵は、なんて長くかかる…

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