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モミの木
モミのき |
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作品ID | 58882 |
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著者 | アンデルセン ハンス・クリスチャン Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「人魚の姫 アンデルセン童話集Ⅰ」 新潮文庫、新潮社 1967(昭和42)年12月10日 |
入力者 | チエコ |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2019-12-24 / 2019-11-24 |
長さの目安 | 約 23 ページ(500字/頁で計算) |
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町はずれの森の中に、かわいいモミの木が一本、立っていました。そこはとてもすてきな場所で、お日さまもよくあたり、空気もじゅうぶんにありました。まわりには、もっと大きな仲間の、モミの木やマツの木が、たくさん立っていました。
けれども、小さなモミの木は、ただもう、大きくなりたい、大きくなりたいと思って、じりじりしていました。そんなわけで、暖かなお日さまのことや、すがすがしい空気のことなんか、考えてもみなかったのです。農家の子供たちが、野イチゴやキイチゴをつみにきて、そのへんを歩きまわっては、おしゃべりをしても、そんなことは気にもとめませんでした。子供たちは、イチゴをかごにいっぱいつんだり、野イチゴをわらにさしたりすると、よく、小さなモミの木のそばにすわって、言いました。
「ねえ、なんてちっちゃくて、かわいいんだろう!」
ところが、モミの木にしてみれば、そんなことは聞きたくもなかったのです。
つぎの年になると、モミの木は、長い芽だけ、一つ大きくなりました。またそのつぎの年になると、もっと長い芽だけ、また一つ大きくなりました。モミの木からは、毎年毎年新しい芽がでて、のびていきますから、その節の数をかぞえれば、その木が幾つになったかわかるのです。
「ああ、ぼくも、ほかの木とおんなじように、大きかったらなあ!」と、小さなモミの木はため息をつきました。「そうだったら、ぼくは、枝をうんとまわりにひろげて、てっぺんから広い世界をながめることができるんだ! 鳥も、ぼくの枝のあいだに巣をつくるだろうなあ! 風が吹いてくりゃ、ぼくだって、ほかの木とおんなじように、じょうひんにうなずくこともできるんだがなあ!」
明るいお日さまの光も、鳥も、頭の上を朝に晩に流れてゆく赤い雲も、モミの木の心を、すこしもよろこばせてはくれませんでした。
そのうちに、冬になりました。あたりいちめんに、キラキラかがやくまっ白な雪が降りつもりました。すると、ウサギが何度もとび出してきて、この小さな木の上をとびこえて行きました。――ああ、まったくいやになっちまう!――
でも、冬が二度すぎて、三度めの冬になると、この木もずいぶん大きくなりました。ですから、ウサギは、そのまわりを、まわって行かなければならなくなりました。ああ、大きくなる! 大きくなって、年をとるんだ! 世の中に、これほどすてきなことはありゃあしない、と、モミの木は思いました。
秋には、いつもきこりがやってきて、いちばん大きな木を二、三本、切り倒しました。これは、毎年毎年くり返されることです。いまではすっかり大きくなった、この若いモミの木は、それを見ると、ぶるぶるっとふるえました。なにしろ、大きいりっぱな木が、メリメリポキッと、恐ろしい音をたてて、地べたにたおれるんですからね。それから、枝が切り落されると、まるはだかになってしまって、ひょ…