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『辞林』緒言
『じりん』しょげん
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「辞林 四十四年版」 三省堂書店
1911(明治44)年4月8日
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2018-01-01 / 2018-01-01
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


あつめおく辭の林ちりもせでちとせかはらじ和歌のうら松   (續千載和歌集)

國語は思想の代表者にして、辭書は國語の寶庫たり。故に其内容は直ちに以て其社會の發達を卜し、其文華の程度を窺ふ料とすべし。我言靈の幸ふ國、我言靈の助くる國、古くより辭書に乏しからず。上は和名類聚鈔・新撰字鏡の類より、下は東雅・和訓栞・雅言集覽・俚言集覽等に至るまで、皆其時代に應じて撰述せられ、後の見るものをして略遺憾なからしむ。世々の學者亦勉めたりといふべし。明治の昭代、文物燦然として學術の隆興實に前代未聞なるに際し、國語學界の事業獨り之に伴はざる憾あり。辭書の如きも、未だ多く徳川時代の著作の羈絆を脱せず、中古以往の語にのみ詳にして、現代の活きたる言語に粗なり。これ社會全般の夙に認むるところにして、實に我學界のために惜まざるを得ず。明治式辭書の編纂は著者年來の希望にして、菲才を顧ず積年其材料の蒐集に從事し、今や漸く「辭林」の名を以てこれを公表するに至れり。然れども、由來、辭書編纂の業容易ならず、更に改訂を加ふべきところ亦多々あらん、著者は專心一意、身を此事業に捧げ、版を重ぬる毎に改刪増補を怠らざるべし。博雅の君子、若しこの意を諒とせば、幸に指教の勞を吝む勿れ。これ獨り著者の幸のみにあらざるなり。
明治四十年四月、歐米漫遊の途に就かんとする前三日
東都本郷西片町の寓居に於て
金澤庄三郎



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