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「絵画の見かた」あとがき
「かいがのみかた」あとがき
作品ID59064
著者中村 研一
文字遣い旧字新仮名
底本 「絵画の見かた」 岩波新書(青版)、岩波書店
1953(昭和28)年11月20日
入力者かな とよみ
校正者sogo
公開 / 更新2018-08-28 / 2018-07-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 矢崎君と私とは同年輩で、約三十年程前に或る所で知り合ったが、そのころ彼は大學の一、二年生であったろうし、私は美術學校の一、二年生の頃であった。青年らしく二人はすぐ大の仲よしになり、約二年位の間兄弟のように親しくしたものである。そのころの彼は專ら哲學とドイツ語の勉強をしていて、後年美術史の大家にならうなどとは、當時私は夢にも考えていなかったのである。其後雙方別々に外國へ遊學をしたり、歸ってからも、東京と九州大學という、あまりにもはなればなれの生活は、遂に二人を遠ざくること三十年の長きにわたらしめたのである。
 雙方がそんな話をしたと見えて、一昨年岩波の村山さんや石井さんや堀江さんたちが私共の再會の機會を作ってくださって、また青年の時のように二人がちっともかわっていないことを發見し、交遊を取りかえしたのである。この機會を作ってくださった三人の方々に感謝をする。
 ちょうどそのころ、外國の現代大家の展覽會がしばしば催され、新しい繪についての關心が非常にたかまったころであったし、そこで岩波書店の有志の方々の質問にまかせて座談式に二人で美術について對話をしたのが速記され、やがてそれをまとめて一册の本にしたらということになった。原稿を讀みかえして見ると、元來が會話故なかなか思うようにまとまっておらず、また「繪の見かた」などと銘うつと、この本に取上げた面以外にいろいろのことが語り殘されていて、まことに不備なものであることを二人共充分承知して、推敲をかさねていたのであるが、まことに元氣そのものであった矢崎君が突然胃の工合の惡さを訴え出し、あっという間に今度は永久に友情を絶って逝ってしまった。然し矢崎君の言いたいことも充分わかるような氣もするので、それではと、すゝめられるにまかせて、本來「繪畫に關するある對話」というほどのものを、あえて出すことになり、矢崎君の靈前におそなえすることになったのである。堀江鈴子さんの並々ならぬ御熱心がなかったなら、これが一本になることは絶對になかったのだし、また、矢崎君の思想を最もよく御存知の澤柳さんがその死後骨を折ってくださったことを故人と共に深く感謝する。
 奇妙な體裁の本になったが、右のような次第で出來たので、そのことを申上げると共に、甚だ不備の點の多いことをお詑び申上げる。また、學者と繪をかくものとの考えのちがいが平行線のように殘っている所など、かえって面白いと言えるかもしれぬ。もし彼が生きていたらこのまゝには濟まさなかったかもしれないが。

昭和二十八年十月
中村研一



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