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外交の後援
がいこうのこうえん
作品ID59068
副題(敵愾にあらず至誠にあり)
(てきがいにあらずしせいにあり)
著者大石 誠之助
文字遣い新字旧仮名
底本 「大石誠之助全集1」 弘隆社
1982(昭和57)年8月5日
初出「社会主義 第八年第七号」1904(明治37)年5月3日
入力者大野裕
校正者持田和踏
公開 / 更新2023-01-24 / 2023-01-22
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

●今日我国が外国に対して為すべき行動の内、最も重要なるものは軍事的と外交的の二つであつて、前者は唯露軍に勝つと云ふのみが目的であるが、後者に至つては汎く列国に対して我国民の公明正大なる事を表白し、以て平和克復の終を善くせねばならぬ。然るに此二つの行動に就ては啻に我軍人と外交家の手腕にのみ依頼せず、我等国民としては出来るだけの力を尽して彼等に後援すべきものである。
●軍事的の後援は専ら国民の敵愾心を振興し士気を鼓舞する事であるが、外交的の後援は国民が平和を追求するの至誠を世界に表白する事である。戦争に権謀と詭計を要する如く外交には公平と至誠が最も必要である。外交の秘訣は策略と術数にありと云ふたは既に昔の事で、今日の外交は決して至誠を失ふてはならぬ。見よ、我当局者が発表した日露外交始末書を読むも、我国は始終温和と公平の態度を採りしに係らず、露国政府に平和を望むの至誠なき為交渉破裂を来したと曰ふではない乎。然り、日露の交渉のみならず、総ての外交には温和と至誠が必要にして喧嘩腰は大禁物である。
●日清の役に我国が軍事に成功し外交に失敗せしは何故であるか。国民が軍事的の後援にのみ熱狂し、外交的の後援を不問に附した故である。当時我国民の敵愾心は其極点に達し、支那人を見ればチヤン/\坊主と罵る子供はあつた、抜刀隊を組織して出陣せんと志願する剣客はあつた、媾和使を下の関に害せんとする兇漢はあつた、支那全士を[#「支那全士を」はママ]横領して東洋の盟主たれとりきむ政治家はあつた。併ながら当時戦争の罪悪を唱へ平和を熱望するの至誠を表白するものは、四千万人中唯の一人も無かつた。左て斯の如き人民の後援を得た当時の外交家は如何なる事を為し能ひしか。彼等が締結した媾和条約は日ならずして列国の干渉を招ぎ、東洋永遠の平和に害あるものとして放棄すべき空文と成つたではない乎。
●日露開戦後仁川に又旅順に、我軍戦へば必ず勝つの時にあたり、欧洲の或外交家は我々を以て好戦国民なりとし、又黄色人種危禍の説が甚盛大になりしにつき、我国朝野の人士は其妄誕なるを弁ずるに勉めつゝある。余等と雖も決して黄禍説を信ぜず、且我国民が強ち戦争を好むものとも思はぬ。併ながら此虚説を打消さんとするには、単に一片の弁妄と反駁のみを以て足れりとせず、確かなる事実を世界に示さねばならぬ。則ち国民が戦争を嫌忌し平和を希望するの至誠を実行に顕はし、過激にして暴慢なる敵愾心の発動を抑制せねばならぬ。
●然るに今日我国民は果して戦を好まぬものゝ行動を為しつゝあるか。余は之を明治二十七八年の時代と比較して何の相違あるやを疑ふものである。当時人口に膾炙せし「伐てよ懲せよ清国を」の軍歌の清国の二字に代ふるに露西亜国の四字を以てせしのみ、支那四百余洲を併呑すべしと放言せし口にて、烏拉兒山頂に[#「烏拉兒山頂に」は底本では「鳥拉兒山頂に」]日章…

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