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文明の強売
ぶんめいのきょうばい
作品ID59069
副題(断じて不正なり)
(だんじてふせいなり)
著者大石 誠之助
文字遣い新字旧仮名
底本 「大石誠之助全集1」 弘隆社
1982(昭和57)年8月5日
初出「平民新聞 第二一号」1904(明治37)年4月3日
入力者大野裕
校正者持田和踏
公開 / 更新2022-11-29 / 2022-10-26
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

○野蛮時代には腕力の強きもの勝ち、文明の世には正義なるもの勝つ。今日世界に於て文明と自称する列国は、皆野蛮から文明に遷る過渡の時代にあるもので、一方には腕力の極点なる戦備を維持し、又一方には正義を口にし人道を鼓吹しつゝある。我国の如きも近く日清戦争の頃までは、国民の目的は唯軍に勝つと曰ふだけで有つたらしいが、今度露国と開戦するに就て、只日本が強いと云ふ事を世界に誇るのみに満足せず、之と同時に正しい国であると云ふて欲しい望が出て来た。仮令へば露国が列国へ通牒を発して日本に開戦態度と韓国に対する行動が公法違反なるを風聴すれば、直ちに我政府も亦之が反駁と弁妄の労を採り、欧米の新聞が黄禍を唱ふれば我国の新聞は露禍を痛論する。其他エール大学のウルシー博士が日本の行動を是認したとか埃及なるマホメツト教の新聞が我国の態度を賞讃したとか、おまけに日本の政府に大禁物な仏国の社会党が公然露国に反対であるなどゝ云ふ事を此上もない有り難い事と考へて居るらしい。是等の事実を考へて見れば今日の主戦家は道義的の神経も随分鋭敏なもので、其胸中にはナポレオンや秀吉が夢にも知らぬ苦労を経験しつゝあるので、随つて我国民一般の思想も余程進歩したと云ふ事がわかる。
○以上は政略家として時局に処する人の苦心を諒察した話であるが、翻つて理想を鼓吹する学者の立場から考へて見るに、此野蛮と文明を兼ね腕力と正義の両刀使ひに符合させる学理を作り主義を拵へるの困難は一層甚しいものと思はれる。而るに今日の主戦論者が口を揃へて絶叫する大主義と云ふを聞くに、東亜の文明を扶植して永遠に平和の保障を与へるのが我大和民族の使命であって[#「あって」はママ]、之を果す為には殺戮も止むを得ず併呑も辞せずと云ふのである。斯の如き主戦論は剣を右にしコーランを左にして教を拡めたマホメツト教の如く、平和会議を主唱し乍ら軍備を拡張する露国皇帝の如く、善を強ゐんが為に暴力を用ゐ大なる平和を得んが為小なる平和を犠牲にすべしと云ふので、或人は之に倫理的帝国主義と云ふ至極都合のよい名を附けたが、余は之を文明の強売であると思ふ。
○然るに此文明と云ふは売方の目から見ての文明であつて、果してそれが真箇の文明であるや否やは一つの疑問であるが、仮りに売方の見解を誤りなきも〔の〕ともせよ、若しもこれが買方の気に入らず快よく受け容れられぬ場合には強て之を売り附けらるべきものであらうか。茲に於て倫理的帝国主義者は無垢なる少女を姦せんとする悪漢の口吻に習らひ、可愛さ余つて悪くさが百倍なりとし、兵力に訴へてまでも我意を達せんとするか。
○マクスミユラー博士が印度の人生観を説くの条に左の一節あり。
生存の為に競争するを欲せず、領土の拡張を願はず、富と権力と快楽を追求することを知らず、而かもそれ以上に一箇の幽玄高大なる目的を保持せし可憐なる印度民族が滅亡したるを歎じ、…

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