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駱駝の瘤にまたがつて
らくだのこぶにまたがって
作品ID59083
著者三好 達治
文字遣い旧字旧仮名
底本 「三好達治全集第三卷」 筑摩書房
1965(昭和40)年12月10日
入力者榎木
校正者尚乃
公開 / 更新2020-08-23 / 2020-07-30
長さの目安約 40 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

間人斷章




秋風に


われはうたふ
越路のはての艸の戸に
またこの秋の蟲のこゑ
波の音
落日
かくてわれ
秋風に
ただ一つ
わが身の影を
うながすよ


馬おひむし


馬おひむしは馬をおふ
うたのあはれや
ものの端に


さるすべり


さるすべり
くさのいほりの戸に咲きて
ふたつなき日のはるかなる
ながたまづさも灰となる


時雨 四章


花木槿

人に面も見すまじき
けふの心のかたくなを
しかはあれどもよしとする
ゆふべはしろき花木槿

村雨

こゑありて見れば村雨
またありておつる日のかげ
秋は巷もひそかにて
ただとほしつくつく法師

しぐれの雨も

しぐれの雨もくれなゐに
軒ばの花のちる日かな
せんすべしらにとる筆の
墨にも花のおつ日かな

ひとり能なき

ひとり能なき越びとの
世をうれふとも何かせん
市に二合のものをかふ
しぐれの客とうらぶれて


爐邊 四章


くれなゐの

くれなゐの花はみな散り
よき友はみなはるかなり
神無月しぐれふる月
こぞの座にわれはまた坐す

いとはやく

いとはやくひと世はすぎぬ
天命を知るはこれのみ
くさびらを林にとると
腰たゆき時雨びとはや

わがうたを

わがうたをののしる人を
ものいふがままにまかせつ
にごりざけ窓にくむさへ
ともはなきけふの日ぐらし



わがうたをののしる人を
いかにわがうべなふべしや
いなまむもことはしげかり
耳ふたげきかざるまねす


殘紅 四章


殘紅

憂しといとひしすゑの世の
ちまたもけふはこひしけれ
日すがら海のこゑすなる
軒端にのこる花はまれ

くつわ蟲

黍の穗たかく月いでて
秋は越路のくつわむし
くつわ蟲とてましぐらに
海になくこそあはれなれ

鉦たたき

すずしき鉦をとをばかり
たたきてやみぬ鉦たたき
よべの歎きをまたせよと
あとはこゑなき夜のくだち

燈下

ふみをおほひてあればつと
こなたにわたる鳥のこゑ
つねなきものはおしなべて
夜をひとこゑのゆくへかな


急霰 四章


霰うつ

霰うつ音にもねむるや
山兎山鳩野雉
この庵の主じはひとり
やぶれたる夢をむすばず

沖ゆ來て

沖ゆ來て松に聲あり
けたたまし軒を走りて
つかのまやはらら聲たゆ
たま霰ゆくへをしらず

わが庭の

わが庭の石うつ霰
松こえて海にはせいる
日に三たび港に舟の
はててのち夜には七たび

霰ふる

霰ふる庭に剪らせて
わななくをさしはさみたる
菊一枝 花二輪
みなし子のごとく相寄る


村酒雜詠


日もくれぬ

日も暮れぬ己が盞を
みたせただ餘はそらごとぞ
己が詩をみづからうたへ
月やがて松にかからん

盞は

盞はちひさけれども
ただたのむ夕べの友ぞ
おほかたはひとをたばかる
世にありてせんすべしらに

爐に臥して

爐に臥して憂ひをいだく
肱枕さむきをのべて
ありなし…

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