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菖蒲湯
しょうぶゆ |
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作品ID | 59085 |
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著者 | 幸田 露伴 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「花の名随筆5 五月の花」 作品社 1999(平成11)年4月10日 |
入力者 | 浦山敦子 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2023-08-22 / 2023-08-15 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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五月といつても陽暦と陰暦とでは一月ほど差がある。しかし五月といへば、たとへそれが今のは昔のの四月に当るにしても、木の芽は張りきれ、土の膏はうるほひ溢れ、天の色はあたゝかみと輝きとを増して、万物に生長と活動とを促がし命ずるやうな勢を示してくる、爽快な季節である。
新緑の間に鯉幟のはためく、日の光に矢車のきらめく、何と心よいものではないか。檐の菖蒲こそ今は見えぬが、菖蒲湯のすが/\しい香り、これも一寸古俗に心ゆかしさを感じさせられる。しかし何も彼も更新の時である、菖蒲も煮くたしたやうになつては野暮だ、清らな新湯へ、さつと菖蒲を打込んだ其わづかの間に、湯烟の中から、すいとした、もたれつ気の無い[#挿絵]に[#「[#挿絵]に」はママ]浸されるところに嬉しい、新しみの強い、いき/\した、張りのあるいゝ気持をおぼえるのだ。
(昭和八年五月)