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危し‼ 潜水艦の秘密
あやうし せんすいかんのひみつ
作品ID59098
著者山本 周五郎
文字遣い新字新仮名
底本 「山本周五郎探偵小説全集 第一巻 少年探偵・春田龍介」 作品社
2007(平成19)年10月15日
初出「少年少女譚海」1930(昭和5)年7月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者良本典代
公開 / 更新2022-07-20 / 2022-06-26
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

拾った暗号紙

「何だろう、これは?」府立第×中学の校庭には、七月の真昼の陽が照りつけていた。眼の眩むようなその陽ざしの中で、蹴球の猛練習に熱中している二年級の生徒が四五人、いまトラックの一隅にかたまって、一枚の紙片を取巻きながら盛になにか議論していた。
「なんだ下らない、出鱈目書だよ」
「だが、暗号文らしいぜ」
「暗号なら春田に見せてやれ。彼奴人間の作った暗号なら、どんな物でも解いて見せると威張っていたじゃないか」
「そうだ春田に見せて困らせてやれ」皆は口々にそう囃したてながら、紙片を持って、校舎の方へ走っていった。そして藤棚の下で春田龍介君がやってくるのに出会った。
「春田君、君はいつか人の作った暗号文ならどんな物でも解いてみせるといったね」春田君は濃い眉を神経質に動かしながら、しっかり頷いたきりで黙って微笑んでいる。
「よし、じゃあこれを解いて見たまえ」
 春田君は友達から紙片を受けとると、よく見もせずに――「明日の練習時間までに解いてくるよ」と無造作にいったまま、すたすたと向うへ去っていった。皆は思わず、
「がっちりしているなあ[#挿絵]」と呻いた。
 春田龍介は二年級の級長をしていた。お父様の春田博士は大学の物理の教授で、その感化もあったのであろう。龍介君は学校中での秀才、頭の良さといったら春田君の質問には、先生でも時々答えにつまるくらいだった。

謎の暗号

 家にかえった春田君は、勉強部屋に閉じこもって、例の紙片を取出し、叮嚀に検べはじめた。それは極く上等の純白の模造紙にペンで書いたもので(○ツエイ ハ ヨ○八時三十分 ヨリ行ウ ○ショップ ○ンセン同伴ス)というだけの文句である。春田君は二時間ばかりというもの、夢中になって、その暗号を解くことに熱中した。
 そしてまず文句の中の○の部分へ文字を当嵌めて、左のような文章を作り上げたのである。(サツエイ ハ ヨル八時三十分 ヨリ行ウ ビショップ ヤンセン同伴ス)
「サツエイとは撮影のことだろう」と春田君は呟いた「ビショップとは英語で牧師さんのことだな、すると、(夜八時半にヤンセンという牧師をつれていって撮影を行う)というだけのことだ……」
 それだけがわかると、こん度はその文章のかげに隠されている暗号があるに相違ないと思って、春田君は更に、ABC分解やら伊呂波分解や、五十音分解法などを応用して、その文章を検べに取掛った。それから間もなく扉の外で、
「お兄さま、お兄さま!」と呼ぶ声がした。
「お入り!」春田君は顔もあげずにいう。
「御免なさい」そういって部屋へ入ってきたのは、龍介君の妹で尋常六年生、文子さんという活溌な、少女だった。
「なにか用かい?」
「御飯ですって。今夜はね、実験室でお父様の実験があるから、早く御飯をすませてお手伝いにゆくのですって」
「よし心得た、すぐ行くよ」
「あら! それな…

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