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黒襟飾組の魔手
くろネクタイぐみのましゅ
作品ID59100
著者山本 周五郎
文字遣い新字新仮名
底本 「山本周五郎探偵小説全集 第一巻 少年探偵・春田龍介」 作品社
2007(平成19)年10月15日
初出「少年少女譚海」1930(昭和5)年8月別冊読本
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者良本典代
公開 / 更新2022-07-22 / 2022-06-26
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

黒い封筒の挑戦状

 八月の午後の陽は府立第X×中学の野球グラウンドの上に照りつけていた。
 グラウンドでは三年級のティームが猛練習の最中だった。こっちのスタンドには三年級受持の倉持教諭が、同僚の化学の教師と共に話していた。
「あの捕手は肩も良いし、とても綺麗なプレイをするが、何という生徒だね」
「あれか、あれはそら、先月だったかC・C・D潜水艦事件で手柄をあげた、あの春田龍介だよ」
「ああ、あの少年探偵か、ふーむ」
「二年級のキャプテンをやっているんだ。とても確りしている。秋には全国中等学校野球大会へ出るんで、この暑いのに毎日猛練習さ。あれで家へ帰ると、父さんの化学実験の手伝をするんだそうだからね……」
 話しあっていた時――詰衿服に鳥打帽をかぶった混血児の少年が、スタンドに上ってきた。
「春田龍介君にお眼に掛りたいのですが」
「何の用だね」倉持教師が振返って訊いた。
「手紙を頼まれて来たんです」混血児の少年はそういって、黒い封筒にはいった書面を見せた。
「じゃ待っていたまえ、いま練習中だからね。もうすぐ休憩になる」
「では、先生からおわたし下さい。僕ちょっと急ぎますから」
 少年はそういうと、黒い封筒の書面を倉持教師にわたして、さっさと立去った。
 と練習がすんで、全身汗みずくになった龍介が、皆と連立ってベンチの方へかえってきたので、倉持教師がスタンドを下りてきて声をかけた。
「やあ、諸君御苦労さん……ところで春田君、いま君にこの手紙を届けてきた者があるよ」
「そうですか、どうも有難うございます」
 受取ってみると黒い封筒、なんだか妙に忌わしいような気持がする。開けて見ると白い紙へ朱色のインクでこう書いてあった。
少年名探偵春田龍介君足下。我等は貴君に警告す、我等は来る八月十八日深夜二時を期して、貴君の伯父若林子爵家の所蔵する黄色金剛石の頸飾を奪いとるべし。貴君にもしその志あらば、我等は頸飾を中心に一騎討を試みるべし。
黒襟飾組主領
「なーんだ、馬鹿馬鹿しい」
 春田龍介はそういって、怪しの手紙を無雑作にポケットへ捻こむと、皆に挨拶して大股にグラウンドを立去った。

咄! 朱色の脅迫状

 龍介が家へ帰ってみると、伯父に当る若林子爵家から、ぜひこっちへくるようにと電話がかかって来ていた。もしやと思ったので、龍介は自動車で出掛けた。
 伯父の若林子爵は、書斎で龍介のくるのを待構えていた。そして龍介が大きな書棚を背にして深椅子にかけると、黙って一通の黒封筒に入っている手紙をわたした。龍介は一瞬間ぎょっとしたが、受取って中をあらためた。――中は龍介が混血児からわたされたのと同じ朱色の手紙で、こう書いてある。
警告。我等は貴家所蔵の黄色金剛石頸飾を頂戴せんと欲す。時日は八月十八日深夜二時。――しかしてこの事の事実なるを証拠だてる為、今十五日深夜二時、貴家の書斎に…

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