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幽霊屋敷の殺人
ゆうれいやしきのさつじん
作品ID59106
著者山本 周五郎
文字遣い新字新仮名
底本 「山本周五郎探偵小説全集 第一巻 少年探偵・春田龍介」 作品社
2007(平成19)年10月15日
初出「少年少女譚海」1930(昭和5)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者良本典代
公開 / 更新2022-07-25 / 2022-06-26
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

謎の白堊館

「どうだね龍介!」
 晩餐のあとの珈琲を啜っていた春田博士は、龍介少年を見ながら、読んでいた新聞紙を投げだして話しかけた。
「近ごろ例の謎の白堊館事件というのが、ばかに新聞で騒がれているが、あれは全体どんな事件だったのだね?」
「ああ、あれですか?」
 龍介少年は食後の林檎を噛みながら答えた。
「あれは近頃にない面白い事件なんです、父様。なんでも松川源二という工学博士が、芝区白金三光町の自分の邸で、奇妙な方法で殺されたのですがね、それが妙なことには、殺される一週間ほども前から、召使の下男の吾郎という男に俺は幽霊に殺される! ということをくり返していっていたと云うのです。そして下男の吾郎も、それから時々深夜の邸内を白い背の高い幽霊が、ふわふわと歩いているのを見たといいます。博士は九月八日の深夜書斎で殺されたのです。その時、博士が撃った拳銃の音で眼をさました吾郎が、駈けつけると、扉の閉まっている書斎の中から、背の高い白い幽霊がふわふわと脱け出てきて暗い廊下を応接間の方へきえていったというのです。ぶるぶる顫えながら吾郎が、厳重な、扉の鍵をこじあけて書斎へ入って見ると、博士は深椅子にかけて、片手に拳銃を持って死んでいました。それが又妙なことには、警察から医者が駈けつけて調べた結果によると、額に何かでちょっと突いたくらいの痕があるばかりで、どこにも命をとられるような重傷がないのです。――幽霊を間近に見たので、恐怖の余り心臓麻痺を起して死んだのだろう――と警察医は診断しました。しかし、勿論警察の人々はそんな夢のような話を信用することはできないので、博士の体を帝大医科で解剖しましたが、結果は同じで、内部にも別に変ったことはないのです。そこで下男の吾郎を厳重に調べましたが、この男は長年の間博士につきそって、いつも自分一人で博士の面倒をみていた忠僕だということが分っただけでした。――博士は下男と共に、三月ほど前に、本郷の方から現在の邸へ移ってきたもので、この邸へ移る時、吾郎を相手に口癖のように、『今度の家へゆけば、俺はかならず大金持になってみせるぞ、そうすればお前にもたくさん分けてやるからな!』と云っていたそうです」

松川理学士現わる

「なる程」と博士が頷いた。「面白い事件らしいが、だいぶ複雑しているな!」
「僕ぁ大へんこの事件は面白いと思っているんです、ちょっと待って下さい」
 そういって龍介少年は席を立った。
「僕、二三日前から、この事件について調べあげたノオトがありますから、それをすこし父様に、お話ししてみましょう!」
 そして、自分の部屋へ去ったが、すぐ一冊の部厚な雑記帳を持ってきて、それを繰りながら話しつづけた。
「ねえ父様、僕、一昨日と昨日とまる二日、上野の図書館で調べたのですが、それによると、あの博士の殺された白堊館では、今度までにもう八人も人…

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